熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
「ええ。外はとっても天気がいいし、運動不足だから少しくらい歩かないと先生に言われちゃう」
 架純は肩を竦めつつ、最後に日よけ用のつばの広い帽子を被った。フリルのついたデザインと可憐なレースがお気に入りで、架純が出かけるときにいつも被っているものだ。
「では、くれぐれもお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「行ってきます」
 初夏の爽やかな風が心地よい。今日は燦燦と陽の光が降り注いでいる見事な五月晴れだ。年々気温が高まっていて梅雨に入る前から夏日になることが多くなった。そのうち人魚姫や海をイメージするような本物の夏もあっというまにやってくることだろう。
 駅までは徒歩で十分くらいの距離だが、これだけ陽射しが強いと、普段あまり外に出ることのない架純の白い肌があっという間に赤くなってしまいそうだ。
 さすがに帽子だけでは頼りなく感じた架純は、バッグに忍ばせていた日傘を広げ、なるべく日陰を通って移動することにした。
 ふと、歩いているうちに傘の受羽部分の芯が弱っていることに気付く。よく見れば天を覆う生地も全体的にへたってしまっている。近々新しくする必要があるかもしれない。
 それから電車に乗って二つほど先の駅で降りると、改札口を出てすぐに大きな白い塔のような建物が見えてくる。そこが今日の目的地。架純の通院先である十和田総合病院だ。
 病院の玄関に向かう途中、駅前のバス停に並んでいた親子の側を通りかかった。その小学学校高学年くらいの女の子の腕に点滴の痕を見つけた架純は、不意に自分の小さな頃のことを思い出していた。
(私の心臓病が見つかったのは、あの子くらいのときだったのよね……)
 架純の病気は主に心臓弁膜の開閉がうまくいかずに逆流したり血液の循環不良に陥ったりするというものだ。その他にも合併症状があり、活動制限と段階的な手術が必要とされている。難病指定にされている心臓病の複合型の疾患をわずらっていた。
 架純は過去にそれらの疾病に由来した、速い脈と遅い脈が交互に現れる症状に見舞われてしまい、血栓症を引き起こす心房細動の発作を起こした。そのときに一度、心臓の手術を経験している。予後は良好であり一応は普通の生活はできているものの病自体は完治したわけではない。
 架純はその心臓病の定期健診を受けるために、ここ十和田総合病院にやってきたのだ。
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