熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
「もし疲れたらショートカットできる分岐地点がある。見たいエリアにどこからでもちょうどよく回れるようになっているみたいだからね」
「レビューを見ると、そういうところも新しくできたここの人気の理由なんでしょうか」
「そうだな。あとは大水槽のイルミネーションとか、アーチ型の水槽とか、定番のイルカショーも見応えがあるらしいし」
「いいですね。先生は、どのエリアが好きですか?」
「俺は……落ち着いた深海エリアとか、くらげの浮遊エリアとか」
「……それもいいなぁ。海を側に感じられそう」
「或いは、逆に明るい淡水系のところもいいかもしれない」
「リゾートの青い海を見るみたいで、きっと癒されますね」
「君は?」
「私は……どのエリアも気になるけれど、やっぱりイルカとかラッコとかの可愛い姿がいいかな。でも、先生の好きなところも興味があるので私も見たいです」
「わかった。じゃあ、さっそく最初のエリアからまわろうか」
「はい!」
 今は余計なことを考えない方がよさそうだ。
 水族館の鑑賞を楽しむことに集中しよう。架純はそう思いながら、理人の隣を歩く。
 家族連れやカップルが通り過ぎていくのを横目に、架純は水槽の中で自由に泳ぐ色とりどりの小魚を見た。
 さっそく見どころのアーチ状の水槽を通ると、魚の群れがざっと通り過ぎていき、そのあとをのんびりとした動きで流れていく大きな魚影に釘付けになっていく。青い水槽の中に光と泡がきらきらと煌めき、涼やかな空間に静かなBGMが流れている。
 まるで人魚姫にでもなったような気分になる。光の泡がきらきらと目映く感じた。
 さっそく癒されるような気持ちになって眺めていると、不意に理人が振り向いた。
「写真を撮ってあげるよ」
「いいんですか?」
「ああ。スマホを貸して」
 理人に預けると数枚角度を変えて撮ってくれた。
「私も先生を撮りますよ」
「いや、俺はいいよ」
「そう言わずに! あとから見たら癒されますよ」
 二人で撮ろうと言われたらどうしようか、と一瞬脳裏をよぎってしまう。それを打ち消したくて架純は、はしゃいでみせる。
 理人は戸惑いつつも拒まずに立っていてくれる。何かポーズをするわけではないのが彼らしい。というか、何もしなくても絵になる。まるで一枚の絵画あるいは宗教画のように美しくて、見惚れてしまう。
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