熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
 淡いレースのストールを眺めていると、ひらひらと泳ぐマーメイドのような魚を見て、まるでドレスを着ているみたいだと、はしゃいでいた架純のことが思い浮かんだ。
 無邪気な架純の様子に、普段の慎ましい彼女の雰囲気ともまた違った魅力を感じていた。そんな架純のことが可愛くて、つい衝動的に動いてしまった。ともすれば、そのまま腕の中に閉じ込めてしまいたかった。
 そうでもしなければ、架純がどこかへ消えてしまいそうに感じたのかもしれない。
 やはり架純を自分のものにして、そして彼女が儚い命に怯えたり諦めたりすることのないよう、これから先も長く生きられるように助けたいと切に願った。
 ――君を放したくない。
 医師としてもひとりの男としても、架純のことを大事に思う。そして、自分は彼女のことが好きなのだ、と改めて胸に刻み付けていた。
 見目が清楚で可憐な架純ならばきっと、青い海に透けるような純白のヴェールと、真珠のように輝くウエディングドレスが似合う。
 いつか彼女のその姿を見てみたいと思った。そして、そのときに隣に立つ相手は自分で在りたいと。


■4 心臓外科医の彼の、怒涛の溺愛攻撃


 五月下旬のとある昼下がり。
 忘れていったストールを預かっていると理人に言われ、架純は病院へと向かった。
 最近の理人は忙しいらしく休日はしばらく先になりそうだというので、昼休みの空いた時間に約束をしていたのだ。
 架純のバッグの中にはお弁当が入っている。以前、いつも病院の休憩時間にはすぐに動けるようにパンを軽く食べる程度だという話を理人から聞いていたので、少し摘まめるようなおかずをつめてもってきていた。
 町田にはまた心配そうな顔をさせてしまった。それも無理はない。料理なんていつも彼女に任せきりの架純が急に自分からお弁当を作りたいと言い出したのだから。
 申し訳なく感じながら、先ほどのキッチンでのやりとりを思い出す。
『ま、た、高辻先生のところですか?』
 町田には何もかもお見通しだ。
『……そ、そうなの。この間、ストールを忘れてしまって。預かっていてもらったの。だから、お礼をしなくちゃって』
 本当のことを伝えているのだが、架純の内心を見透かしたかのように、じいっと町田があやしげな目を向けてきた。
『前にもお礼がどうとか言っていませんでしたか?』
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