熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
 事前に予約をとっていた架純は、外来玄関を通ったあと総合受付には立ち寄らず、外来受付機で受診票を発券する。その受診票を備え付けのクリアフェイルに入れると、エレベーターに乗って二階にある心臓外科の外来受付窓口へと向かった。
 その途中、白衣を着て問診に出かける医師や手術後にオペ着で移動する医師、患者に寄り添って説明をしている看護師たちが通り過ぎていく。
 そんな見慣れた光景を横目に、架純は受診票を専門外来の窓口に提出してから、ようやく待合のソファに座って一段落した。
 額に浮かんだ汗を軽くハンカチで押さえ、鞄に忍ばせていた水筒で喉を潤し待っていると、看護師が先ほど提出したファイルを持ってきて架純に渡してくれる。
「久遠さん、こちらの番号でお呼びしますので、診察室の前でお待ちください」
「はい」
 看護師からファイルを受け取ったとき、1122番と記載された番号の下にある【高辻理人】という医師の名前を確認し、心臓が跳ねた。そればかりか【彼】の顔を鮮明に思い浮かべてしまい、胃のあたりがきゅっと締めつけられるような気がした。
 これはけっしてわずらっている病から発症する不調などではなく【彼】のせいだ。会えると思うと鼓動が速くなってしまうし、落ち着かなくちゃ、と思えば思うほど、息が苦しくなってしまう。
 だんだんと架純はその場にいられなくなってきてしまい、一旦、平常心を取り戻そうとお手洗いに行くため立ち上がった。
 お手洗い済ませたその帰りに、病棟に繋がるナースステーションで看護師たちがひそひそと噂をしている声が聞こえてきた。何の気なしに架純はその声を拾ってしまう。
「ねえ、高辻先生……が……」
「え、そうなの?」
「院長との話……聞こえちゃって」
「その縁談……の話は前から出ていたみたいよ」
 架純はいつの間にか聞き耳を立ててしまっていた。そして縁談という話題に足を止め、架純は思わず息を呑んだ。
「どんな方なんでしょう」
「二つくらい年下……とか」
(……え?)
 架純はショックを受けてその場で立ちすくむ。
 すると、看護師たちが架純の気付いて慌てたように腕を突き合って口をつぐんだ。
 架純と看護師たちの間に気まずい空気が漂う。
 彼女たちは入院していた時にお世話になったことがあるベテランの看護師たちだった。
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