熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
 架純自身が傷つく結果になりかねないので詳しく聞く勇気はなかったが、理人のためなら力になりたいと思ってしまう。こんなに架純を頼ってくれているのだと思えばこそ、心が動かされてしまう。あとは偽る行為に対して自分の良心が許すかどうかの話だ。
 その前にこれだけはやっぱり聞いておきたい、と架純は思った。
「私、看護師さんたちが噂をしているのを聞いてしまったんです。理人さんに縁談がきているのだと……」
 架純がそう言いかけると、理人は思い当たる節があるらしくすぐに申し訳ないような顔をする。
「確かに、それは事実だ。君を引き込むことを優先にするばかりへたな言い訳をしてすまなかった」
 理人はそう言い添えると、観念したようにため息をついた。
「兄と兄の婚約者に華を持たせるためというのは事実だが、正直にいえば、その一方で俺に話がきている縁談をすべて断るための方便でもあったんだ」
 なるほど、ようやく合点がいった。そうであれば理由にも納得ができる。理人に寄せられる縁談を断るために、もうパートナーがいるのだと見せつけるため。
 しかしもう一つ懸念の懸念点がある。一族のパーティーと理人は言った。その場合、高辻家にも深く関わりがあるといわれる十和田院長も参加するかもしれない。となると、その場に縁談の相手もいるのではないかと心配になったのだ。
「理人さんは、その方と結婚したくない……ということですか? 彼女が傷ついたりしませんか」
「関係者の出席はあるけれど、縁談の相手はそのパーティーには来ないよ。あくまで現時点では十和田院長の知り合いの、お偉いさんの娘さん……というだけだからね。そこは安心していい」
 架純はそれを聞いてほっとした。誰かを傷つけることも、自分が傷つくことも、どちらもしたくない。そればかりか理人が縁談を断るつもりにしていることに対して、思いきり脱力するくらい安堵してしまっている。
 その一方で、胸の内側でちりちりと焼ける痛みを感じていた。
 架純が転院をしたいと言い出した日から理人の態度に変化が現れた。カフェや水族館に誘ってくれ、引き留めるようなそぶりをみせていた。一連の話を聞く限り、無関係とはいえないだろう。
「ひょっとして先生が最近私をよく誘ってくれたのは、その先生がおっしゃる仮初の契約妻になってほしいがために私を懐柔するつもりだったからですか?」
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