熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
理人に振り回された分をお返ししたくて、架純は拗ねた目を向けてみる。
すると、理人は珍しく言葉に詰まってたじろいだ。
「それは……君は、俺のことをどう見えているかわからないが、その、恋愛方面には疎い。君にしか……頼めないと思ったんだ」
頬がうっすらと上気している彼に、キュンと胸の内が締め付けられて、架純は墓穴を掘ってしまった、と思う。
そんなふうに言われたら断ることなんてできそうにない。好きな人の力になりたい気持ちはある。
迷いはあるが、その場の華を持たせるという目的がはっきりしているし、彼がすぐに身内にきちんと説明するというのなら問題はないだろう。
何より、仮初の関係だとしても一時的にでも彼の妻になれるということが、架純の背中を押した。
仮初の妻、契約に縛られた束の間の……泡沫の時間。その間だけは、彼の側にいられる。彼の大事な女性として存在していられる。
自分の寿命があとどれくらいあるかわからない。いつ発作が起こるかも、この病が完治するのかもわからない。一分一秒先、自分の死が訪れるかもしれないと考えたら、だからこそ叶えてみたいと思ってしまったのだ。
(理人さんの奥さんになれることなんて……この先、万が一にも一生ありえないことだもの)
架純が思い巡らせていた時間は思いの外長かったのかもしれない。押し黙った架純に対して、理人が申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「やはり、こんな手は使うものではなかった。君とのことは――」
理人が言いかけたその言葉が最後まで紡がれる前に、架純は自分からかぶりを振って彼を引き留めた。
今度こそ離れるべきだと。次こそは別れるつもりでいると。自分が傷つかない道を選ぶならそうするべきだったとわかっている。きっとまた町田には心配されてしまうだろう。
それでも――。
「構いません。その仮初の契約妻の役、謹んでお引き受けいたします」
気付いたら架純はそんなふうに自分から申し出ていた。
「……いいのか?」
「理人さんには今までたくさん支えてもらいました。だから私はずっと恩返しがしたいと思っていました。今回のことはその機会を与えてもらったのだと思うんです」
「いや、俺は、そういうつもりでは……」
理人は何かを言いかけては口を噤んだが、最終的には納得したように頷いてみせた。
すると、理人は珍しく言葉に詰まってたじろいだ。
「それは……君は、俺のことをどう見えているかわからないが、その、恋愛方面には疎い。君にしか……頼めないと思ったんだ」
頬がうっすらと上気している彼に、キュンと胸の内が締め付けられて、架純は墓穴を掘ってしまった、と思う。
そんなふうに言われたら断ることなんてできそうにない。好きな人の力になりたい気持ちはある。
迷いはあるが、その場の華を持たせるという目的がはっきりしているし、彼がすぐに身内にきちんと説明するというのなら問題はないだろう。
何より、仮初の関係だとしても一時的にでも彼の妻になれるということが、架純の背中を押した。
仮初の妻、契約に縛られた束の間の……泡沫の時間。その間だけは、彼の側にいられる。彼の大事な女性として存在していられる。
自分の寿命があとどれくらいあるかわからない。いつ発作が起こるかも、この病が完治するのかもわからない。一分一秒先、自分の死が訪れるかもしれないと考えたら、だからこそ叶えてみたいと思ってしまったのだ。
(理人さんの奥さんになれることなんて……この先、万が一にも一生ありえないことだもの)
架純が思い巡らせていた時間は思いの外長かったのかもしれない。押し黙った架純に対して、理人が申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「やはり、こんな手は使うものではなかった。君とのことは――」
理人が言いかけたその言葉が最後まで紡がれる前に、架純は自分からかぶりを振って彼を引き留めた。
今度こそ離れるべきだと。次こそは別れるつもりでいると。自分が傷つかない道を選ぶならそうするべきだったとわかっている。きっとまた町田には心配されてしまうだろう。
それでも――。
「構いません。その仮初の契約妻の役、謹んでお引き受けいたします」
気付いたら架純はそんなふうに自分から申し出ていた。
「……いいのか?」
「理人さんには今までたくさん支えてもらいました。だから私はずっと恩返しがしたいと思っていました。今回のことはその機会を与えてもらったのだと思うんです」
「いや、俺は、そういうつもりでは……」
理人は何かを言いかけては口を噤んだが、最終的には納得したように頷いてみせた。