熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
 しかしその一方、なるべくヒールの低い靴を履いてきたつもりが、緊張のあまりに不安定にぐらついているように感じてしまう。
 身体が丈夫じゃない分、精神力くらいは強くありたいのに、打たれ弱くて脆い自分が本当に不甲斐ない。
 気持ちで負けないように奮い立たせつつ、うまくいかない自分にもどかしく思っていると、隣からすっと理人が左腕を差し出してきた。
「俺に掴まって。寄りかかるくらいして構わないから」
「は、はい」
 理人に言われるがまま、みっともなく見えないように気を配りつつ彼に寄り添って腕を絡ませた。
 理人がぐっと腕を引き寄せてくれたおかげで安定感が増した。何より彼がすぐ側についていてくれると思うとほっとする。
 思わず理人の方を見ると、スーツ姿の彼は格好がよくて、いつもの病院にいる医師である時よりもサラっと自然に流れた黒髪が綺麗で、彼の凛々しい精悍な顔つきを美しく魅せていた。その彼の艶のある眼差しや横顔にもドキドキした。
 見惚れている場合ではないとわかっているけれど。
 視線を感じたらしい理人が気付いてこちらを見る。架純はうっかり見過ぎしていたことを反省したが、彼はなぜか満足げに微笑んで、まるで宝物でも見つけたみたいな顔をした。
「正解だよ」
「え?」
 架純は目をぱちりと瞬かせる。彼の意図がよくわからなかった。
「君の僕を見る目が、ほんとうに好きだって伝わってくるみたいだから」
 理人に指摘されたその事実に、架純は今さら恥ずかしくなってきてしまう。それほど彼を物欲しげに見ていたことがこんなにもあからさまに本人に悟られてしまうなんて。すぐ側に穴があったら隠れてしまいたい気分だった。
「……っだって、妻ですから」
 そんなふうに言い訳をしたら許してもらえるだろうか。この場なら。
「ああ。間違いないな」
 理人がふっと口元を引き上げる。架純は頬や喉のあたりにまとわりつく微熱のような火照りを感じながら、彼に寄り添い続けた。
 それからしばらく来賓に挨拶されるたびに理人の隣で笑顔で応対していた架純は、そのうち理人の父である高辻正臣の姿を見つけた。
 架純も正臣にはしばらく会ってないとはいえ有名な国会議員の顔くらいはわかる。それに、やはり親子だ。理人は正臣によく似ていた。
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