熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
 向こうも理人と隣にいる架純の存在に気付いてやってくる。無論、相手が『久遠架純』とはわからないはずだ。連れてきたのは一体どんな女性なのかと聞かれるかもしれない。
 その心の準備をし、合流してすぐに理人が架純を紹介するように動いたときだった。
「父さん、彼女を紹介するよ」
 そう、理人が紹介してくれようとしていた。そしてすぐに、はじめまして、と口にするつもりだった。
 けれど、先に驚いた相手の表情につられて、架純は言葉を止めてしまった。
「理人、待ちなさい。彼女は――久遠の家の娘さんじゃないか。同伴には婚約者を連れてくると言っていただろう。十和田院長の姿もまだ見えないようだが……これはどういうことなんだ?」
 婚約者という話になっていたことも架純は混乱していた。理人には妻の役を演じてほしいと言われてそのつもりだったのだが。
 でも、よくよく考えれば、父親が息子の結婚を知らないということはなかなかありえない。離れて暮らしていて連絡をとらず、勝手に結婚して報告していなかったというケースもあるかもしれないが。
 正臣の言葉から察すると、理人の場合は普段から父親とまったく接点がないわけではないような感じであるのがわかる。
 何より問題なのは相手が架純であることが一目でわかってしまったことだ。正臣は架純の顔なんて覚えていないだろうという話を理人にされたが、思いのほか正臣の記憶にあったみたいだ。
 どうしよう、と架純は焦って隣にいる理人の方を見上げた。しかし彼の方は動じる様子がない。彼の中で何か策があるのだろうか。ひとまず架純は静かに動向を見守ることにした。
「父さん、先日の縁談の件は、十和田院長としっかり話をして断りました。今日、十和田院長とお会いしたら改めて謝罪するつもりです。それから……父さんの仰る通り、架純とはかつて破断になった経緯がありますが、俺は彼女を愛しているんです。祖父同士のことはもう昔の話です。俺は、これから架純と結婚します」
 愛している、という言葉や結婚するという言葉は、架純には嘘だとわかっていても理人の口から紡がれるそのセリフに勝手にときめいてしまう。
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