熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
「そんな可愛い目で睨んでも逆効果だってわからないかな」
「もうっ。意地悪すぎます」
「意地悪なのは君だよ」
「……どうして私が意地悪なんてするんですか」
「俺が、君に離れてほしくないと思っているのに、離れようとするからだ」
 切々と告げられたその言葉と熱を帯びた表情に、心臓をそのまま直接握られたような衝撃が走った。
「……っ」
 それはまるで告白のようにも感じられてしまい、瞬く間に息ができなくなりそうだった。
(……先生は、理人さんは……私を助けたいの? このままじゃすぐに私、死んじゃうわ)
 理人はそういうつもりで言ったのではないのだとしても、架純に離れてほしくないという彼の想いが、架純の胸の内側の芯をぐっと熱くさせた。
「あの日、転院を考えていると君が言い出したとき、もっとちゃんと話を聞くべきだった。ごめん」
「そんな……私の方こそ、そっけない態度をとりました。ごめんなさい」
 言い合ってから少しだけ柔らかな沈黙が横たわった。
「君はきっと俺の負担にならないようにと考えたんじゃないか」
「……はい」
 もう一つの理由を指摘されるのが困るから、架純はそれで返事をすることにした。
「だったら、転院はやめてほしい。俺は君をきちんと側で診ていたいんだ。何も気にする必要なんてない」
「でも」
「俺の縁談の件だったら、もう君は本当の事情を知っただろう。他には理由が何かある?」
 あるとしたら、あなたのことをこれ以上好きになってしまう前に離れなくてはいけないことです。
 今までなら理人の負担になりたくないと思うだけだった。でも今は、自分が苦しくなるのが辛いと思ったからだ。
 だから、離れたくなくても離れなくちゃと言い聞かせてきたはずだったのに。
 これ以上、離れがたくなったらどうしたらいいというのだろう。こんなにも理人のことが好きで、どこにも行き場のない想いを持て余してしまっているのに。
 募る想いに喉のあたりが締まっていく。
 理人への気持ちが溢れてこのままじゃ涙が出てしまいそうだったから言葉にせずに俯いた。
 すると、頬を覆った髪にするりと理人の指が絡まる。カーテンのように一時しのぎでも溢れる気持ちを隠してしまいたかったのに。彼の指がこぼれた髪をそのまま耳にかけてしまった。
< 51 / 110 >

この作品をシェア

pagetop