熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
「壁の厚さ、動き、前回と変わりないですね。特別な異常は見られません。エコーはこれで終わります」
 架純はホッと胸を撫でおろした。
 変わりないということは現状維持であること。しかし架純の病は特殊で、普段は異常が見つかりにくい。手術する前だってある日突然、心臓発作に至った。知らずに異変が起きていて放置すれば壊死してしまいかねない状況だったのを緊急手術で救われたのだ。
 詳しい説明をされてもなかなか一般人には理解をするのが難しい病で、とにかく今は不整脈などが起こらないように発作を抑えてなんとかコントロールしているにすぎない。
 あと二回発作が起きたら、少なくとも手術できるのは最後だと言われている。その手術後に発作が起きたら……架純の命の保証はないかもしれない。
 幸い、中学生の頃から二十六歳の現在まで、十年はなんとか生きられた。
 その後はまだ次の一回目の発作が起きていない。まだ生きられる。あとどのくらいかはわからないけれど。そんな爆弾を抱えながら生きることは怖くて、最初の手術のあとは幻痛に襲われて苦しむことが多くあった。
 術後はだいたい一年くらい様子を見たあと、寛解までにさらに一年後、三年後、五年後……と治癒までの期間を区切っていくようだが、そこで再発や発作があるかどうかは個人差だ。
 架純の難病は体調が急に悪くなることもあるけれど、発作が起きずに十年生きられた予後が比較的良いケース。しかし十年を節目に大人になったら再手術を検討することが必要だともいわれている。
 その間にも医療技術の進歩はなされている。難病指定のある架純の症状にもなにか光が見えてくるかもしれない。
 完全に寛解するか治癒しない限りは、医師の勧めもあって架純は定期健診を月に一度受けるようにしていた。
「次の定期健診は一ヶ月後ですが、何か気になることがあればいつでもご相談ください」
 診察室に戻ったあと、医師がそう言って微笑む。
 架純にしてみれば、月一ではなくできたら週一で通えたらいいのにと思う。それは病気が心配だからというよりも、彼に逢いたいからだった。
「あの、高辻先生は、変わりないですか?」
 お大事にと、看護師から診察室から追い出されてしまう前に、架純はとっさに彼に問いかけた。
 少し意表を突かれた顔をする彼に、申し訳ない気持ちになる。
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