熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
 彼らは二人の間で会話が弾んでいるようで、こちらの視線には気付いていない。
 仲睦まじそうに微笑みを交わす二人は、美玖の言うとおりたしかにお似合だ。理人も麗奈も絵になる雰囲気を持っている。
 そんな二人を見ていたら、ちくりと胸の内側にいやな痛みが走った。
「それもそのはずよね。本当は、麗奈お姉様には理人さんとの婚約の話が出ていたのよ」
「え……」
 寝耳に水だった。
 固まっている架純を尻目に、美玖が話を続ける。
「けれど、麗奈お姉様はその後、來人さんを選んだ。よくあることだけれど……両家にとってはどっちと婚約しようと関係ない。どちらでもよかった。私は理人さんの方がよいとは思ったけれど、麗奈お姉様は來人さんを気に入ったのよ。理人さん気の毒だったわね」
(知らなかった……)
 麗奈のことは來人の婚約者という話だけしか聞いていない。理人の方に先に婚約の話が出ていたなんて理人から聞いたことはない。
「あの、何か誤解があるのでは?」
 架純は信じがたい気持ちで美玖に尋ねた。しかし美玖は即座に顔を横に振った。
「いいえ。これは事実よ。理人さんに話を聞いてみればわかることだわ。まぁ、あなたには言いにくかったんでしょうね」
それを聞いて、架純は理人の様子を思い浮かべていた。最近の彼がやたら強引に物事を進めようとしていることに戸惑ったのは事実。その背景に特別な事情があったのだとしたら納得してしまう。
 仮初の関係であるにも関わらずに、本当の恋人ひいては妻にするような触れ合いがあったことも、彼の心に満たされないものがあったからだとすれば説明がつく。
 いやな鼓動が胸の内でどくどくと動いていた。
(だめ、余計なことは考えたくない)
 理人が架純のために行動してくれたことが、仮初のものだったとしても、そこには彼の想いがあったはずだ。すべてが偽りだったとは思えないし思いたくない。
 もう何も言わないでほしい、架純は美玖の側から離れたくなった。けれど美玖はどんどん話を進めてしまう。
「理人さんにはその後、十和田院長のお知り合いの方と縁談が……という噂を耳にしていましたのに、まさか理人さんが選んだのが一度破談になった相手――架純さん、あなただなんて驚いたわ。彼には同情していたけれど、彼も彼でひどいのね。あなたがやさしい女性だから、弱みに付け込みやすかったからかしら?」
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