熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
「……っ理人さんは、そんな人では!」
 さすがに聞き捨てならなくて架純は即座に否定したのだが。
「だって、ここだけの話。何か理由があるんでしょう? 私の推測としては主役二人に華を持たせるために一時的に協力してくれる女性が必要だった、とか」
 美玖の試すような眼差しに、架純はドキリとする。彼女の指摘は当たっている。だから、なんだか見透かされているような気がした。
「誰かから何かそういった話を聞いたのでしょうか?」
「いいえ。あくまでも私の推察よ。けれど、もしもそうだとしたら、この状況って、あなたにとってすごく可哀想だと思ったの」
 美玖は大仰にため息をついてみせて頬に手をやった。
「あなたがいくら理人さんのことが好きでも、理人さんは麗奈お姉様のことが好きで忘れるために利用されているだけということよ。別れた方があなたのためじゃないかしら?」
 釘をさすように美玖が言う。
「どうしてそんなことを私にお話されるのですか? それに私は理人さんがそんな薄情な人だとは思っていません。私は……別れた方がいいなんて考えていません」
 むきになっている自覚はあったが、でも止められなかった。美玖だって悪気があって言っているわけじゃなくて架純のことを慮ってくれているのに。
「私だって知らないふりをして黙っていてもよかったのよ。でも、なんだか利用されているあなたのことを見ていられなくなったの。だって、あなたって表面上のことをすぐに信じてしまいそう。とっても純粋そうだもの。私だったら耐えられない……今後はよくお相手のことを見極めた方がいいと思うわ」
 同情を込めた目で見られ、架純はいたたまれなくなる。彼女の言うことはあながち外れてはいない。架純はずっと閉じられた狭い世界に生きてきた。それこそ雛鳥が親鳥に寄せるような想いが理人に対するものであったことは完全に否定はできない。
 そして恋は人を盲目にさせるものだということくらいはわかっている。チャット友達のハルにも、意思の弱さを指摘されたことがあった。架純自身思い当たることがあまりにも多すぎる。
 理人を信じている。けれど、架純は自分のことを信じきれていなかった。それは、自分に自信がないからだ。彼に愛されるだけの理由があるように思えない。ただ、彼が向けてくれる想いだけはまっすぐに受け取って大事にしたいと考えていた。ただそれだけのこと。
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