熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
「架純……君の言うとおりだ。俺が君に甘えていたんだ。負担を強いて申し訳なかった」
「……理人さんは――」
聞いてしまおうと思った。けれど、それは躊躇われた。きっと本当に息の根が止まってしまいそうだったから。
「うん?」
聞けない。知りたくない。本当のことなんて知らなくていい。知らないまま遠ざかってしまいたい。
矛盾だらけのままはじまった恋は、矛盾したまま泡沫に消えていく。好きな人からの本物の愛は得られず好きな人への本心は何も言葉にしないで終わる、人魚姫の恋のように。もうそれでいいのではないだろうか。
理人が好きで側にいたい。けれど、側にいる資格があるとは思えない。彼が求めている自分でいられる自信もない。
とうとういたたまれなくなって、架純は勢いに任せて頭を下げた。
「ごめんなさい……もう充分だと思います。私、実家に帰らせていただきます」
気付いたらそう口にしていた。
引き留めようと動く気配を察した架純は、逃げるようにリビングから出て行き寝室へと移動した。
ドアを閉めて背中を向けてから架純は思い至る。少しの距離なのに勢いをつけすぎて息が切れている。
どうして逃げる場所をここにしたのだろう。ここは仮初の夫婦の二人が過ごしていた場所だった。
けれど、今はきっと理人は追いかけてこない。そんな気がした。
しばらくしてから小さなノックの音がした。ピクリと全神経が理人の方へと向けられるものの声も出せずにベッドに横たわっていると、少し置いてから理人のくぐもった声が聞えてきた。
「明日の早朝、俺は出ないといけない。君はここにいてもいいし、一度、帰りたいのなら実家に戻っても構わない。でも、俺はいつでも君のことを待っているし、折に触れて迎えに行くから」
踏み込んでこないし尊重してくれる。けれど、ちゃんと迎えに行くと離さないでいようとしてくれている。
架純の方から突き放したのに、理人はそれでも大事にしてくれている。
理人の本音がわからない。でも彼らしいところはたくさん知っている。彼の根底にあるやさしさなど知っているはずだった。彼は架純を傷つけることなんてしない。いつだって助けてくれた。
でも、今回のことを考えると、ぐちゃぐちゃでよくわからなくなってしまった。一緒にいたら架純の方からとんでもないことを口にして傷つけてしまいそうで怖かった。
「……っ」
「……理人さんは――」
聞いてしまおうと思った。けれど、それは躊躇われた。きっと本当に息の根が止まってしまいそうだったから。
「うん?」
聞けない。知りたくない。本当のことなんて知らなくていい。知らないまま遠ざかってしまいたい。
矛盾だらけのままはじまった恋は、矛盾したまま泡沫に消えていく。好きな人からの本物の愛は得られず好きな人への本心は何も言葉にしないで終わる、人魚姫の恋のように。もうそれでいいのではないだろうか。
理人が好きで側にいたい。けれど、側にいる資格があるとは思えない。彼が求めている自分でいられる自信もない。
とうとういたたまれなくなって、架純は勢いに任せて頭を下げた。
「ごめんなさい……もう充分だと思います。私、実家に帰らせていただきます」
気付いたらそう口にしていた。
引き留めようと動く気配を察した架純は、逃げるようにリビングから出て行き寝室へと移動した。
ドアを閉めて背中を向けてから架純は思い至る。少しの距離なのに勢いをつけすぎて息が切れている。
どうして逃げる場所をここにしたのだろう。ここは仮初の夫婦の二人が過ごしていた場所だった。
けれど、今はきっと理人は追いかけてこない。そんな気がした。
しばらくしてから小さなノックの音がした。ピクリと全神経が理人の方へと向けられるものの声も出せずにベッドに横たわっていると、少し置いてから理人のくぐもった声が聞えてきた。
「明日の早朝、俺は出ないといけない。君はここにいてもいいし、一度、帰りたいのなら実家に戻っても構わない。でも、俺はいつでも君のことを待っているし、折に触れて迎えに行くから」
踏み込んでこないし尊重してくれる。けれど、ちゃんと迎えに行くと離さないでいようとしてくれている。
架純の方から突き放したのに、理人はそれでも大事にしてくれている。
理人の本音がわからない。でも彼らしいところはたくさん知っている。彼の根底にあるやさしさなど知っているはずだった。彼は架純を傷つけることなんてしない。いつだって助けてくれた。
でも、今回のことを考えると、ぐちゃぐちゃでよくわからなくなってしまった。一緒にいたら架純の方からとんでもないことを口にして傷つけてしまいそうで怖かった。
「……っ」