熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
 その後、心臓外科の病棟の階に到着した架純は、開いたドアの先に見える景色に緊張する。
 白衣を着た医師、オペ着姿の医師、忙しく往来する看護師の姿、そして患者たちの様子。見慣れた病院内、懐かしい入院病棟を見渡し、理人の姿がないことを確かめてほっと胸を撫でおろす。
 それから――架純はハルに教えてもらった病室を目指して歩いた。その間も鼓動はずっと高鳴ったまま、身体がやっぱりだるかった。
 重たい身体を動かして病室に到着すると、窓際の一番奥にハルの姿があった。
 彼がひょこっと飛び出るように顔を出して満面の笑顔を咲かせる。架純も笑顔で応えた。
 架純は息が乱れるのを整えながら、抱えていた花束を持ってハルのベッドのところまで行こうと思った――そのときだった。
(――!)
 どくりと強く心臓が脈を打った。遅れて息が詰まる。その瞬間、架純は背部から胸を貫くような痛みに慄き、そのまま崩れ落ちるように床に手をついた。声すらも出なかった。
 その拍子に、花束は無残に散ってしまう。架純は喘ぐように胸を上下させた。鼓動が暴走するように走り出したのを感じた。これは過呼吸の方の発作ではないのは明らかだった。
「スミレ!?」
「……っ」
 声が出せない。息がうまく整わない。脂汗が滲んでいく。指先が動かない。視界が見えなくなっていく。身体がぶるぶると震えていた。
「誰か! はやく! はやく誰かきて!」
 ハルがナースコールを鳴らし、さらに部屋の外に出て看護師を呼んだのが遠くに聞こえた。
「陽樹くん、どうしましたかっ」
 ハルキ……。
 ああ、彼の本当の名前を知ったのに、自分は教えてあげることのないままかもしれない。そんなふうに脳裏をよぎった。
 とうとう、恐れていた最後から二番目の発作が起こったのだ。
 苦しい。痛い。息ができない。熱いのに、床に触れた指先が冷たい。怖い。心臓が今にも破裂してしまいそう。自分の身体が自分のものではないみたいに、自由が効かない。
 ハルにこんな姿を見せたら、同じ心臓の病を持つ彼だってきっと不安になる。はやく今すぐになんていうことない大丈夫だよと言いたい。
 霞んでいく視界の中、架純は理人のことを思い浮かべた。彼の顔が見たいと思ったのだ。
(理人さん……、理人さん……っ)
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