熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
それから理人はソファに倒れ込んで天井を仰ぐ。職務以外のことでこんなに虚しい疲労感を抱いたのは初めてだった。
目を瞑って身を委ねたままどのくらい経過したのか、いつの間にか暗くなっていくのを感じてカーテンを閉めた。そのまま理人はソファで一晩を明かした。
朝を迎えたあと、理人は気怠さを払うようにシャワーを浴びて濃い目のコーヒーを入れた。
出勤の準備を済ませたあと、架純に声をかけるか迷った末にそのまま無言でそっと部屋を出た。
病院に到着したあとは医師の顔にならなければならない。ブリーフィングで他の医師や看護師からの申し送りを見聞きし、午前は外来の診察、昼前と後に巡回、そして午後にはオペが二件入っているのを確認する。人の生命を握る医師の現場で、他のことを考えている余裕はない。
理人は思考をいったんクールダウンさせた。自分を客観視し、医師としての目でやるべきことを頭に入れ込む。それはいつものルーティンだった。
それから――昼のあとの巡回で心臓外科の病棟に足を向けたときだった。
病棟内に異変が起きた。誰かの叫び声が聞こえた。とある病室から若い男が看護師を呼んでいた。
急かすように看護師を呼んでいた彼の前には、容態の急変した患者がいるようだ。すぐ側にいた理人は何より優先すべくその場に駆けつける。
声をあげている彼の前に、廊下に倒れている女性の姿があった。
その顔を見て、理人は血の気が引いた。
「架純……っ!」
理人は思わず彼女の名前を叫んだ。駆けつけると、苦しそうに喘いでいる彼女の表情は虚ろげで今にも瀕死状態だった。
理人の手が震える。恐れていた発作が起きたのだと、瞬時に悟った。
あと二回。そのうちの一回。残り一回……。命の灯が消えていってしまう怖さを打ち払うように理人は架純を励ます。
「大丈夫だ。君のことは俺が必ず助ける……」
それから理人は痙攣するように震える架純を抱き寄せ、看護師に声をかけた。
「緊急オペの準備! 急いで」
「はいっ」
手術室に入る。すぐにオペ着に着替えてオペ前の処置を済ませる。一分一秒も無駄にはできない。
緊急オペに入ることは当然ながらこれまでに何度も経験している。エコーで状態を再確認、開胸したあと冷静に病態を確認した。
目を瞑って身を委ねたままどのくらい経過したのか、いつの間にか暗くなっていくのを感じてカーテンを閉めた。そのまま理人はソファで一晩を明かした。
朝を迎えたあと、理人は気怠さを払うようにシャワーを浴びて濃い目のコーヒーを入れた。
出勤の準備を済ませたあと、架純に声をかけるか迷った末にそのまま無言でそっと部屋を出た。
病院に到着したあとは医師の顔にならなければならない。ブリーフィングで他の医師や看護師からの申し送りを見聞きし、午前は外来の診察、昼前と後に巡回、そして午後にはオペが二件入っているのを確認する。人の生命を握る医師の現場で、他のことを考えている余裕はない。
理人は思考をいったんクールダウンさせた。自分を客観視し、医師としての目でやるべきことを頭に入れ込む。それはいつものルーティンだった。
それから――昼のあとの巡回で心臓外科の病棟に足を向けたときだった。
病棟内に異変が起きた。誰かの叫び声が聞こえた。とある病室から若い男が看護師を呼んでいた。
急かすように看護師を呼んでいた彼の前には、容態の急変した患者がいるようだ。すぐ側にいた理人は何より優先すべくその場に駆けつける。
声をあげている彼の前に、廊下に倒れている女性の姿があった。
その顔を見て、理人は血の気が引いた。
「架純……っ!」
理人は思わず彼女の名前を叫んだ。駆けつけると、苦しそうに喘いでいる彼女の表情は虚ろげで今にも瀕死状態だった。
理人の手が震える。恐れていた発作が起きたのだと、瞬時に悟った。
あと二回。そのうちの一回。残り一回……。命の灯が消えていってしまう怖さを打ち払うように理人は架純を励ます。
「大丈夫だ。君のことは俺が必ず助ける……」
それから理人は痙攣するように震える架純を抱き寄せ、看護師に声をかけた。
「緊急オペの準備! 急いで」
「はいっ」
手術室に入る。すぐにオペ着に着替えてオペ前の処置を済ませる。一分一秒も無駄にはできない。
緊急オペに入ることは当然ながらこれまでに何度も経験している。エコーで状態を再確認、開胸したあと冷静に病態を確認した。