熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
君を必ず助ける。医師に必ずや絶対はないということはわかっている。だが、それでも手を尽くしてみせる。
 ――君を愛している。
 どうか、生きてくれ。
 そして、すぐ側で、俺に君への愛を伝えさせてほしい。


■7 必ず助けてみせる


 混濁していた意識がぼんやりとだが覚醒していく。消毒液の匂いと規則正しく刻む心音。
 やがて靄がかった視界の中に見えたものは――。
「久遠さん、お目覚めになりましたか。少し寒いかもしれませんが、移動しますからね」
 すぐに返事をする声は出なかった。どこへ移動するのだろう。身体が冷たいまま、私は生きているのだろうか。それとも死んでしまっているのだろうか。
 肌に触れる重みや、胸の中に詰まっているような引き攣れる痛みがそこにはあった。
 白と水色の服を着た人が往来している。
 台に乗せられた自分の身体が動いている。どうやら手術室から出たあと、病室へと移動しているらしい。
「……先生」
 唇から零れていく声を側で拾う人がいる。手を握っていた人がいる。
「架純……」
 泣きそうな顔をしている、愛しい人。
 ……理人さんの手が震えている。
「緊急的に処置はした。だが、次の発作が起きる前に手術をしなければならない」
 そしたら次こそもう命はないのだろう。そして次までその時間は考えている以上に短いのだろう。大きな発作を起こした心臓が弱っているのを架純は自分自身で感じていた。
 架純が目を覚ましてほっとした顔をしたと思った理人が今度は悔しそうに表情を歪める。その表情に察するものがあった。
「成功は……難しい?」
 理人はかぶりを振る。以前に五分五分だと言っていた確率さえ口にはしない。それは架純のためになのか、彼自身の拒絶なのか。
 個室の病室の中、看護師がそっと出ていく。それから理人は架純のすぐ隣に座り、手を握ってきた。
「俺に……その手術を、君の執刀医を担当させてくれないか」
 理人はそう告げた後、架純の心臓に起きている現在の詳しい症状をようやく教えてくれた。
 そして、緊急オペのあとで、次のオペで執刀するのは別の医師がいいのではないかと議論される中、現時点では成功したことがあるのは理人だけだという成功率の方を信用することになったらしい。
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