熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
 陽樹もまた同じように人とは違う、寿命が常に一分一秒先にあるかもしれない現実を受け止めてきたことだろう。彼もまた架純と似た症例の心臓の病を抱えている。
 つまり、架純を救うことは彼を救うことにもなりえる。ひとつまたひとつ救える命が増える。院長の言っていたことが脳裏をよぎった。
 理人は手にぎゅっと力を込める。入りきらなくなった力をまた再び取り戻すように。
 人の命には限りがある。人それぞれの寿命は異なるものだ。それは天命なのだと唱える者もいるかもしれない。
 だが、未来ある若者を志半ばで見捨てる天命など、医者としては断じて認めるわけにはいかない。
 人は、可能性がある限り、諦めなければ何度でも道を拓き、再生することができる生物だ。その力を内に秘めている。その助けとなるために存在するのが医師だ。
 医師は神様ではない。人間だからこそ、共に必死にあがいて生きようと願うのだ。
「ああ。君のことも助けて見せる。だから、生きることを諦めないでほしい。そして、これから先も彼女の友人ていてやってほしい」
 理人の励ましが伝わったのか、陽樹に少しほっとした色が浮かんだ。
「俺も彼女とは友人でいたい。もちろんです。ただ……」
 言いづらそうにしている陽樹に理人は首を傾げた。
「ん?」
「先生が……嫉妬しないのであれば、ですけれど。俺が邪魔になったら申し訳ないですし」
 いきなり別のベクトルの話題を振られ、理人は面食らう。
 窺うような陽樹の様子と彼の言葉の意味を咀嚼し、理人はしばしどう回答していいものやら言葉に詰まってしまった。
 すると、当惑している理人がおかしかったのか、陽樹は軽やかに笑った。
「わかってましたよ。あんなに必死な先生を見たのは初めてだって看護師さんたちが騒いでたから。それに、その前からチャットでスミレのコイバナを聞いて、相談に乗ってたんです。なんとなく、きっと相手は高辻先生のことなんだって知ってました」
「……取り乱してすまない」
 すべて知った上で陽樹は尋ねてきたのだ。しかし理人としては頭が痛かった。まさか理人が彼に嫉妬をしていたこと、その詳細を明かしてはいないだろうとは思うのだが、だいぶ心を許した相手のようなので些か自信がない。
「安心してくださいよ。具体的なあれこれは聞いてませんから」
「なら、いいんだが……」
 理人は思わずといったふうに肩を竦めた。
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