優しすぎる同期にかわいい罠をしかけられました

優しい同期

 ぼんやりコピーを取っていると、目の前に小さなチョコ菓子があらわれた。
 差し出してきた手の主を確認するべく振り返ると、同期の下平(しもひら)くんがいる。

 ぼうっとしすぎて気配にも気づかなかった。
 入社二年目、わたくし木島菜津(きじまなつ)はちょっと疲れているのかもしれません。
 
「あげる」
「……ありがとう」

 この気遣いと優しさは、さっき上司に仕事のダメ出しを食らった私を見ていたのだろう。
 下平くんはそんなときいつもお菓子や缶コーヒーをそっと私に渡すフォローを欠かさない。
 
「手伝えることあったら言ってね?」

 私がお菓子を受け取ると、下平くんは小声でそう囁いて自席に戻っていった。
 オフィスを歩く姿も、任される仕事も、気がつけば同期というよりも先輩のような風格がある。
 いつの間にこんなにも差がついてしまったのだろう。

 悔しいとか嫉妬なんて感情はない。

 けれどなんだか寂しい。
 
 最近、優しい上に顔もいい下平くんには恋人がいるとわかり、社内の女子には下平ロスのような空気が漂っている。
 
 私もその中の一人なのかもしれない。
 優しくされるほど寂しい気持ちになるのにと思いながら、手渡されたチョコ菓子を見つめた。
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