優しすぎる同期にかわいい罠をしかけられました
 金曜の週末となると飲みに誘われもしたけれど「仕事が残っているので残業します」と切り抜けた。
 
 あまり人付き合いが得意ではないから出来れば逃げたくて、しかし片づけておきたい仕事があるのも嘘ではない。

 ポツンと居残ったオフィスでパソコンとしばし向き合った後、ふと手を止めてため息をひとつつく。
 指示通りにこなした仕事のダメ出しにどうも納得がいかなくて、ずっと引きずっている自分が嫌だった。

 せっかくの週末もこのモヤモヤを抱えて過ごすのだろう。
 私はネガティブな出来事を引きずりがちである。

 机の上に置いたままだった、下平くんにもらったお菓子を見ると彼が恋しくなる。
 優しく微笑まれたい。
 出来れば名前を呼ばれて。

 仕事上で嫉妬することはないのに、下平くんの恋人には少し嫉妬してしまいそうな自分がいる。

「下平くん……」
「はい?」

 独り言のように呟いたはずが、下平くんの声で返事が返って来たことにびっくりして声のするほうを見ると、そばに下平くんが立っていた。
 
 「え……?」

 幻聴か幻覚か。いや、現実だ。
 通勤バッグを手に帰ったはずの彼が、見送ったときの姿で私のそばに立っている。

「手伝えることあるかなって思って……戻って来たんだけど。……呼んだ?」

 少し驚いてみせながらも、笑ってそう訊ねられる。
 確かにうっかり名前を呼んでしまったけれど、召喚したつもりなどなかった私のほうが今度は驚く。
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