第三幕、御三家の矜持
 間違いないはずだという確信が、空気を凍り付かせる。そのことだけに気が付いて口を噤む。桐椰くんは目を見開いて、閉口し、少し視線を彷徨(さまよ)わせた。


「……早く告白されに行くぞ」

「されにいくぞって……」


 告白される予定なのは私なんだけどな……。私の質問には答えないまま、桐椰くんは先に鞄を持って教室を出ていこうとする。その後に続く頃には、クラスメイトはもうこの話題に対する興味を失っていて、教室を出ていく人達は野次馬根性なんて欠片もなく、ただ帰宅しようとしているだけだった。私と桐椰くんはみんなと逆方向に歩き出し、比較的人の少ない廊下と階段とを黙々と歩く。

 夏休みが明けて、たった二日、されど二日。その間、桐椰くんとまともな会話が成立したのは、この手にある手紙の話題だけだ。それが何を意味するのかは分からない。ただ分かるのは、その原因が桐椰くんと優実の関係にあるということだけだ。

 一週間くらい前、桐椰くんと優実が初めて会って、それからどうしたのかは知らない。優実が桐椰くんと何か話したがっていたのは分かったから、私は早々に退散した。家の中で優実からわざわざ話なんて聞かなかった。その日だけじゃない、優実から桐椰くんの話を聞くことはあっても、二人がどうなっているのかは知らない。でも、桐椰くんと優実が連絡を取っている話は優実から聞くし、桐椰くんに彼女がいないかもかなり遠回しに聞かれたし、何より初恋の人に再会して何もないわけがない。だから、李下(りか)(かんむり)を正さずというか……、優実に変に誤解されるようなことはしないほうがいいと思うんだけどな。


「……ねぇ桐椰くん、一応隠れておこうね」

「何が。俺が?」

「そうだよ。あたかも私が一人で来ましたかのように隠れておいてくださいってこと」


 本当は、私への告白現場に桐椰くんがやって来たなんてことが万が一優実に伝わったら困るからだ。でも桐椰くんは「お前がそう言うならそれでいいけど」と嘘の理由に納得した様子を示す。


「でも本当にただの好意だったら申し訳ないよね。告白現場に見張りがいるんだもん」

「お前に告白する時点でそれは覚悟してるだろ」


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