第三幕、御三家の矜持
「どうしたの? 急に出てきてどきっとしちゃった?」

「んなわけねーだろ! ……なんだよ」


 おや……、今はどこか旅行中と同じくらいの覇気を感じるぞ。何かあったのかな、と首を傾げてみるも、桐椰くんのほうが私に「で、なんだよ」と用もないのに呼ぶなと言いたげだ。


「……ううん、呼んだだけだけど」

「なんだよお前は……。つか食わねーの? 午後倒れるぞ」

「サンドイッチ買ってきたんだけどおにぎりの気分になったから交換しない?」

「なんでだよ我儘かよ!」


 じぃっとアルミホイルに包まれた桐椰くんのおにぎりを見る。なぜコンビニおにぎり特有のフィルムに包まれてないんだろう、もしかして桐椰くんのお手製おにぎりかな。

 おにぎりをじろじろと眺める私に桐椰くんは呆れた目を向ける。


「そんなに白米がいいのかよ? 別に変えてもいいけど……」

「ううん、気が変わったからサンドイッチ食べる」

「なんなんだよお前は!」

「桐椰くんご機嫌だね」


 よいしょと椅子に座り直し、桐椰くんの前に横向きで座るかたちになりながら、サンドイッチの袋を机の上で開いた。桐椰くんはぴくっとその眉を寄せる。


「何かあった?」

「……別に」

「当ててあげよっかー、優実に会った!」


 私の予想では、私に図星をつかれた桐椰くんは、おにぎりの最後のひとかけらを慌てて呑み込んで「なんで知ってんだ!」と真っ赤になる。


「……会ったけど、で?」


 ──はずだけれど、なぜか予想に反して、桐椰くんは落ち着いた様子で私を見つめ返すだけだ。冷静にその手は次のおにぎりに手をかける。お陰で私のほうが内心狼狽えた。


「……会ったから、テンション高いのかなーって」

「別にテンション高くなる理由にはなんねーだろ」


 いや、なるでしょう。十分すぎる理由になるでしょう。

 とはいえ、どうせ最近の桐椰くんの様子からすれば、私に何かを話してくれることはないんだろう。仕方なく追及は諦めて、慣れ親しんだコンビニの味を噛み締めついでに顔を背ける。でも、桐椰くんの視線が私の横顔に注がれている気配はする。なん、だろう。


「…………」

「…………」

「……お前、」

「はい」


 漸く声をかけられたので食い気味に返事をしてしまった。お陰で桐椰くんがちょっと面食らって、一瞬だけ目を逸らした。


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