第三幕、御三家の矜持
 そして見事、女子の注目の的となることが決定した桐椰くんはひくっと頬を引きつらせる。


「は……? つまり失敗できないってことか……?」

「元気出して桐椰くん」

「そのどーでもよさそうな取り敢えずの慰めむかつくんだよ! くっそ引き受けるんじゃなかった……!」


 私の後ろの席に戻ってきた桐椰くんは地団駄を踏むがごとく机を拳で叩いているけれど、どうせ桐椰くんの性格じゃ分かってても断れなかっただろう。桐椰くんは「くそっくそっ」と語彙も貧弱に悪態をつきながら最後のおにぎりを掴んで、机の上を片付ける。


「どうしたの?」

「応援団集合早いだろ。もう行く」

「ふーん。いってらっしゃい」

「他人事だなテメェ……」

「だって他人事だもん」


 もっしゃもっしゃと悠々とサンドイッチを食べていると、そのわざとらしい態度がやはり桐椰くんの神経を逆なでしたらしく、そのこめかみには青筋が浮かぶ。なんだか前の桐椰くんに戻ったな……。


「……じゃあ俺行くから。放課後勝手に帰るなよ!」

「帰る前にちゃんと連絡入れるね」

「よし言い方を変える、帰るなよ」

「今のはギャグですかいたたたたた」

「俺は急いでるんだよ! じゃあな!」


 ぐぐぐっと私の頬を引っ張って離し、桐椰くんは足早に出て行った。やるとなったら責任感あるんだから、桐椰くんは。

 頬を擦りながらその後ろ姿を見送り、残るサンドイッチを頬張る。しかし、情緒不安定ともいえる桐椰くんの変容っぷり……。優実に会って、一体何がどうしたというのだろう。







 桐椰くんが応援団に入るという話が回るのは、早かった。昼休みの中盤に差し掛かる頃には多分全女子が知っていて「本部の後ろとらなきゃ!」と食べかけのお昼を残してグラウンドへと駆けて行った。桐椰くんの後ろで踊る予定だったらしい女の子が「折角特等席で見れると思ったのに……」と涙目になっていた。基本的に御三家の中でも松隆くんが一番人気なので、ここまで桐椰くんの人気があるとは思ってなかった。私の隣でいつもキャンキャン吠えている不良くんが純粋に人気あるってなんだか違和感があるな……。

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