第三幕、御三家の矜持
 つまり、子供同士の喧嘩を親の力で決着させる、と。それは生徒会至上主義を知ったときから聞いていたことだ。松隆くんがその手段をとらないとしても、生徒会役員の中にはその手段をとる人がいて、だから“気に掛けないと”いけない。となると、ふーちゃんが中立でいることができる理由の一つに、父親の職業もあるのか……。

 そう考えると、松隆くんがそういうことをしないとはいえ、私が御三家側にいるのはある意味あるべき姿なのかもしれない。私の父親のボスも松隆くんのお父さんにだし。


「お互い父親の職業のせいで大変だよねー」

「さぁ、俺はあんまり気にしてないけど」

「全然関係ないけどー、松隆くんってそうやって生徒会役員の親の仕事 のことまで知ってるの?」


 ふーちゃんの、そんな何気ない一言。ふーちゃんの父親の会社と役職を口にしようとした松隆くんに対する、純粋な疑問。それは私も抱いておかしくない疑問で、確かに、なんて反語的に頷きながら松隆くんに視線を遣った。


「生徒会役員に関してはそうだね。だって、俺達の敵だろう?」


 ──その視線の先の松隆くんの笑顔の、真偽は読めない。


「そうだねー。でも、そんなのいちいち覚えるの大変だろうなって」

「そうでもないよ。指定役員の数自体は多くないからね」

「指定役員だけ知ってるの?」

「それだけ知れば十分だろう?」

「ふーん……」


 この会話に不穏さを感じているのは、私だけなんだろうか。

 そんな感覚は勘違いだとでもいうように、松隆くんは「それより、なんでこのクソ暑い日に学ランなんて着せるんだろうね」と第一ボタンだけを開ける。ここは乗っておくべきか、と判断してわざとらしく首を傾げた。


「脱がないの? もしかしてファンサービス?」

「寧ろ脱いだらファンサービスなんだよ今は」

「どういう……」

「やはりシャツを着ていないのかお前は」

「えっ変態じゃん」

「は?」


 あぁしまった、うっかり乗りすぎてしまった。松隆くんの顔と声のトーンが一瞬で変わったので慌てて「ふーちゃんもそう思うよね!」と矛先を分散させようとすると「まぁ三次元は汗かくもんねー」とよくわからない返事が来たせいで何の意味もなかった。


「だ、だって着てないっていうから……」

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