第三幕、御三家の矜持
「ま、普通はお父さんなんて来れないよ、土曜日の昼間なんて。もちろん父親と母親揃って来てる人もいるけどね」


 丁度親子揃って話す生徒が見えたので注視する。近所のスーパーでパートをしてそうな主婦っぽいお母さんと、通勤時間の電車で見かけそうなサラリーマン風のお父さんの組み合わせ。それから、そのお母さんと手を繋ぐ、まだまだ甘え盛りですと言わんばかりの小学生くらいの女の子。その三人と話す、両親と仲は良いけど高校生にもなって体育祭に来るなんて恥ずかしいからやめろとでも言いたげな男子──。


「あ、鳥澤くんの家は揃って来てるんだねー」

「そうですね……」


 ──その家族は鳥澤くん一家だった。よりによってその家族か、と慌てて視線を逸らす。ふーちゃんは私の気も知らず「そういえば鳥澤くんも特待って噂あったなー。この時間に家族で来れるってことは本当なのかも。成績上位だし」と呟いた。家族の観覧と特待が結びつけられた理由は、“体育祭に家族が来るなら大体サラリーマン家庭で、それなのに花高に通えるってことは特待”ということだろう。つくづく非の打ちどころのない好青年じゃん、鳥澤くん。

 とはいえ、月影くんのせいで若干気まずいし、なるべく顔を合わせないようにしょう……、と意識して鳥澤くんのいない方向へ視線を遣る。誰かの兄弟なのか、花高生と楽しそうに話す中学生らしき女子が何人かいた。


「でもさー、わざわざこんな日に出会いにくる人の気がしれないよねー」


 こんな暑い日に砂ぼこりの舞う体育祭なんて来て楽しいのかな、と白い目を向けてしまっていると、ふーちゃんが私の心を代弁した。


「そういえば桐椰くんも逆ナンっぽいことされてたなぁ」

「え、桐椰くんそんなの断れないじゃん」


 浴衣からジャージに着替えた後、ふーちゃんはふと思い出したようにそう口にした。またまた夏休みの桐椰くんが想起されてしまう。水着のお姉さま方の誘いを断れずビーチバレーに飛び入り参加した桐椰くん。

 が、予想に反してふーちゃんは手を横に振って否定する。


「ちゃんと断ってたよー。断ってたっていうか、あしらってたって感じだったけど。だから応援前の桐椰くん見てて意外だったんだよねー。ひっつかれるとダメなんだ的な」


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