第三幕、御三家の矜持
 桐椰くんが、あしらう……? あの桐椰くんに女子はあしらえないんじゃないだろうか、と頭の中に真っ赤な顔の桐椰くんを思い浮かべる。無理だな。お陰で「ふーん……?」と釈然としない相槌を打ってしまう。


「それとも年上に弱いのかな? ナンパしてた子、年下っぽかったもん、ちっちゃかったし」


 年下っぽい……? 午前中、という情報も加味すると、相手に疑念──というか思い当たる人がいる。ナンパされるってことは当然競技がないタイミングで、そうなると私が障害物競走に出てる間とか……。


「桐椰くんが年下の扱いに慣れてるって、世話焼きっぽくてギャップ萌えだけどねー」


 その言い方からすれば本当に“あしらってた”ことになる。桐椰くんが世話焼きだと知ってる私からすれば、“あしらってた”というのはきっと、遥くんの面倒を見るのと同じような“扱い”をしていた……。


「……そのナンパって、相手の女の子、ツインテールでこのくらいの背の子?」

「あー、そうかな? 遠目に見ただけだけど。あと肌色やたら多かったかなー」

「……それ見たのって、午前中のいつ頃?」

「んー、障害物競走の頃? ほら、亜季は丁度月影くんに連れて行かれて、ずっとグラウンドの真ん中にいたくらい」


 ……間違いない。ふーちゃんが見た相手は、優実だ。

『桜坂の妹って遼の初恋の人だったんだ?』

 松隆くんが知っていたのも納得がいった。そもそも松隆くんは優実の顔を知っているから、見ればそうだと分かったはず。そして松隆くんが私にその話をしたのは、障害物競走が終わって、男子の綱引きも終わった後。あの松隆くんとはいえ、ただ桐椰くんと優実の様子を見ただけじゃ“初恋の人”とまで考えは及ばなかっただろう。実際桐椰くんも優実をあしらってたわけだし。となると会話を聞いたか、関係を直接訊ねたかしたということだ。

 なるほど、と納得した。お陰で、リーダーって何でも知ってるな、なんて恐怖心はちょっとだけなくなった。ただの偶然の産物だったのか。

 そして、はた、と首を傾げる。そうだ、桐椰くんは優実をあしらっていたんだ。どうして、桐椰くんは優実をあしらって……?

「……ねぇ、あしらうって、具体的にどんな感じに?」

「えー、あたしも『あ、ナンパされてるー』って感じで見ただけだから詳しくは覚えてないけど……」


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