第三幕、御三家の矜持
 ピーッという音と共に引き上げた両組が整列する。数えると、おそらく同数──引き分けだ。≪引き分けにより、延長戦に入ります≫と焦った声が進める。そういえば午前中は御三家事件のせいで時間がおしてるんだって言ってたっけ。騎馬戦も延長戦なんてやりたくなかったんだろう。赤組と白組がそれぞれ三組だけ一歩前に出る。


「お、副将戦は松隆くんと桐椰くんじゃん」


 いいねぇ、とふーちゃんが頷く。松隆くんは遠いので肉眼では分からなかったけれど、桐椰くんは金髪とシルエットで分かった。ふーちゃんは双眼鏡から目を離す気配がない。


「松隆くんと桐椰くんってライバルっぽい感じあるよね」

「んー、んー……確かにそんな感じはするよね」


 松隆くんの口から語られたコンプレックスを思い出したせいで口籠る。実際、騎馬戦でも副将戦はあの二人になるわけだし。……そこで月影くんが出てきても、団長の判断を疑うことになるけれど。因みに見ることに夢中になっていた間は気づかなかったけれど、背後の女子は「私も双眼鏡持ってくればなぁ……」とかなんとか嘆いている。確かにそこまで用意周到なことをする人は三年の一部女子くらいしかいなかった。つまり一部女子は準備していた。恐ろしい。

 ピーッ、と笛の音が鳴る。まずは三将、一年生だ。じりじりと攻めあぐね、赤組の方が先に仕掛ける。が、まるで剣道の面打ちでできた隙を突くように素早く飛び出た手がそのハチマキを奪い去った。

≪三将戦は──白組の勝利!≫

 白組からは太い歓声が上がり、「よくやった白崎!」といった声援を送る。≪続きまして、副将戦≫と合図がされ騎馬が組まれると、打って変わって黄色い歓声が上がった。もう慣れたので私は動じない。すかさず双眼鏡を準備。桐椰くんは後ろ姿だったけれど、松隆くんが冷ややかな目で構えているのはよく見えてしまった。ひぃっ、と背筋が震える。

 ピーッ、と笛の音が鳴った。瞬間、パンッ、と掌がぶつかり合う音がこちらまで聞こえてくる気がするほど激しい取っ組み合いが始まった。両組からはヤジが飛んでいて、どれがどちらからかは分からないけれど「顔殴ってしまえ!」「無様にしてやれ!」は多分松隆くん宛で「負けんな!」「大将戦に持ち込め!」とかいう悪口のないヤジは多分桐椰くん宛だ。松隆くん、同性人気なさそうだもんね。

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