第三幕、御三家の矜持
 双眼鏡で見ていると二人は何か喋っているのか、松隆くんが時々浮かべる底意地の悪そうな笑みと動く口が見える。口喧嘩は桐椰くんが負けそうだな。

 が、あくまで口喧嘩は、だ。松隆くんの表情は一瞬驚いたものに変わって、その態勢が崩れたかと思うとハチマキが奪われた。赤組から雄叫(おたけ)びが上がる。

≪副将戦、赤組の勝利!≫

 再び太い歓声、白組の団長は気合いを入れるように掌を拳で殴る。大将戦にもつれこむのはどちらの団長にとっても願ったり叶ったりだろう。

 が、私はもう興味を失ってしまった。双眼鏡を下げ、ただ大将戦の観戦を邪魔しちゃ悪いから、決着がついてから返そうかな、と考えつつふーちゃんを見れば、ふーちゃんも双眼鏡を見ていなかった。


「……ふーちゃん、これありがとう……」

「あ、亜季ももういらないんだねー。いやぁ、王子様の腹筋は本当に良かった」


 もうその感想にツッコミを入れるのはやめた。

 騎馬戦に対する興味を失ったのは私達だけではないらしく、もちろん自分の組を応援する女子はいるけれど、全体のテンションが下がったのは背後からでさえ伝わってくる。体育祭って、なんなんだ……。

 お陰で気づいたときには≪大将戦、赤組の勝利!≫と騎馬戦には決着がついていた。自分の組が勝ったというのに、我ながらあまり感慨は湧かない。


「あとは選抜リレーだけかぁー。松隆くんと桐椰くんは出るけど」


 “出るけど、なんだかなぁ、”とでも聞こえてきそうな言い方で色々邪推する。もしかしてふーちゃん、御三家がコスプレしてるか脱ぐかしてないと興味がないのか。どこまでもぶれないな。

≪続きまして、男女混合選抜リレー≫

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