第三幕、御三家の矜持
 折角最前列にいるのでそのまま選抜リレーも見させてもらおう、とふーちゃんと一緒に座りこむ。私達はすっかり日陰で観戦を決め込んでいるので忘れてしまいそうになるけれど、グラウンドでは真夏の太陽がじりじりと地面と人を焼いている。お陰で選抜リレーの整列が始まれば上裸の男子が結構いた。元々暑さには耐えかねていたところに騎馬戦のお陰で上半身が解放され多少涼しくなった、なんて人達にとっては、もう一度汗と泥まみれの体操服を着るなんて冗談じゃない、というわけだ。女子と違って日焼けを嘆く人も少ないので、おかまいなしに体を焼いている。お坊ちゃまなんて温室育ちでひ弱なイメージがあるけれど、選抜リレーに出るほどの人が軟弱な体なわけがなく、ふーちゃん曰く「目に毒な体はないね!」という面々だ。

 選抜リレーは各組に所属するチームが二つずつある。白・黒は白組所属、赤・ピンクは赤組所属、黄・橙は黄組所属、緑と黄緑は緑組所属、青と紫が青組所属、という分け方だ。各チームのメンバーは、各学年から男女一人ずつ選抜される。当然足の速い人が選ばれやすいけれど、三年は男女少なくとも一名は応援団から選抜しなければいけないので、一方のチームの男子アンカーは自然に団長になる。そして、各チームは組の色と一致する色が一軍。決まっているわけではないけれど、勝とうとすればそうなるのは当然だ。

 結果、桐椰くんが赤、松隆くんが白のハチマキを締め直しているのが再び借りた双眼鏡で見えた。とはいえ、リレーでは全体像を把握しないと楽しくないので、双眼鏡の出番はこれっきりになりそうだ。

≪いちについて、よーい、≫

 パンッ、と銃声が響く。さすが選抜リレー、誰もかれも学年の誇る俊足達、スタート地点の差はみるみる埋まり、コーナーの取り合いで白チームの女子が先頭に出る。すぐあとに続くのは赤、橙、少し間をあけて緑、黄緑、ピンク、黒、黄。白がそのままトップを維持し、男子にバトンタッチ。更に差をつけて男子が走り、赤がそれを追いかけ、その後ろが少しずつ順番を入れ替えながら走る。が、白は二年女子にバトンが渡ったタイミングで転倒。観客がどよめき、赤と橙が血も涙もなく彼女の脇を駆け抜ける。白の二年女子は黄緑と並んで走り出すほど遅れをとるも、すぐに橙を抜いた。隣で観戦している女子が「さすが学年ナンバーワン」と褒めていたので、相当速いんだろう。

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