第三幕、御三家の矜持
 そして大詰めというにはまだ早い、暫定一位走者のバトンが二年男子に渡った瞬間、女子の声援が増す。それは二位走者も同じ。トップは桐椰くん、次が松隆くんだ。


「すごいねー。もうそろそろ息するだけで尊まれちゃいそう」


 茶化すような口調のコメントには激しく同意する。御三家人気は体育祭でインフレしているといっても過言ではない。

 当の本人達はといえば、松隆くんが桐椰くんに追いついたせいで必死にコーナーを競っていた。すかさず双眼鏡で表情を見ると松隆くんの苦々し気な表情、双眼鏡から目を離すと、桐椰くんは松隆くんに抜かれることなく、トップを維持したまま三年女子にバトンを渡した。松隆くんは二位で渡す。


「王子様ってあんなスポーツできるんだねー。意外意外」

「ふーちゃんが“王子様”っていうたびに煽りを感じちゃう」

「んー、まぁ半分くらい煽ってるかも? 王子様、心広そうな顔して意外と心狭くて意外と心広そうだからさー」


 言わんとしていることはよく分かった。いつでも温厚に微笑んでいるくせに短気、ただし本気で敵と見做(みな)した相手以外には無関心な寛容さをみせる。

 そんな松隆くんはバトンを渡した後にそのまま走り抜け、桐椰くんと一緒に待機場所に歩いていた。双眼鏡で覗かずとも桐椰くんの得意げな顔と松隆くんの不満げな顔は目に浮かぶ。今日の帰りはそれで煽ることにしよう、と頭のなかでシミュレーションした。

 その後のリレーに番狂わせはなく、ちらほらと順位を変動させながら、白が一位でゴールした。その後赤、黄緑、ピンク、青、橙、黒、黄、緑、紫とゴール。白組は一位獲得に盛り上がっていたけれど、もう一つの白組である黒チームが七位だったので、総合評価はそうよくなさそうだ。


「さーてと、体育祭も終わりかぁ。御三家のお陰で今年は結構楽しかったー」


 ふーちゃんと同じように、女子はきゃっきゃと御三家の推しについて語っていた。ただ、ふーちゃんの言葉には首を傾げる。


「御三家は去年からいたわけだし……呼ばれ始めたのは体育祭より後でも、騒がれてはいたんじゃないの?」

「あぁ、そうなんだけど、やっぱりほら、イケメンなだけじゃここまで騒がれないよ」


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