第三幕、御三家の矜持
 ぺこっと頭を下げてみせる様子に妙なところはなかった。なんなら抱いた印象は同じ「アキ」だな、程度のもの。罠だというのは考えすぎかな。その鳥澤くんは照れたように後頭部に触れながら「えーっと」と視線を彷徨わせる。


「あの……、手紙、ごめんね? 直接渡せなくて……あ、というか貰った?」

「あ、うん、ここに」


 というか貰ってなかったらこの場所に来れてないのですけれど、なんて意地悪なことを言うのはやめておいた。真面目そうに見えるので揶揄ってはいけない人のような気がした。私の返事に鳥澤くんは「そっか、」と安心したように微笑む。それだけでなんだか良心が痛んだ。


「えーっと……、その、ちょっと訊きたいんだけど……桜坂さんって、桐椰と付き合ってる?」

「付き合ってないですね」


 BCCでのカップル出場は嘘でしたと蝶乃さんが暴露したとはいえ、実際はどうなのかを尋ねるのは慎重な人なら当然だ。真面目そうだからそこもちゃんと確かめておきたいんだろう。だから妥当な質問だったのに、なぜか慌てるように素早く答えてしまった。

 でも鳥澤くんが私の不審さに気付くことはなく、それどころか安堵したように「そっかぁー」と照れ笑いをした。お陰で思わず目を逸らす。しまった……、多分、この人純朴すぎるくらい純朴な人だ。色々と後ろめたいことがある私みたいな人間にとっては目を見るだけで気まずくて仕方がない。

 そして鳥澤くんは照れ隠しでもするように後頭部に手を当てながら少し視線を彷徨わせる。


「その……だからというのも変なんですけど、よかったら、俺と付き合ってもらえないですか……」


 そして後半だけは誠実にも目を見てくれる。それでも答えは決まっている、ノーだ。申し訳なさのせいで内心溜息を吐く羽目になる。問題は答え方だ。好きな人がいます、だと対象を御三家に絞られてしまいそうなのでやめておこう。妙な誤解を生んではいけない。特に表情を変えずに頭を下げておいた。


「ごめんなさい、今誰かと付き合うつもりないので」

「あー……えっと、うん、そうだね……そうかなとは思ったんだけど……」


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