第三幕、御三家の矜持
 そう、鳥澤くんが指定した映画はその手の映画だ。鳥澤くんと見に行くことが確定した後に調べた予告によれば、大病を患った恋人との残った時間を名一杯幸せに生きようとする二十代後半の男女のラブストーリー。要は松隆くんのいう通り“ヒロイン死亡確定のありがちなお涙頂戴映画”である。あの人の好さそうな鳥澤くんのことだ、多分男女のデートなら外さないだろうと思ってのチョイスだろう。でも残念ながら私は──松隆くんのように若干の嫌悪感を示すほどじゃないにしろ──その手の映画に興味はなかった。

 そして、それは残る二人にとっても同じだった。さすがにこれを見る気にはならないなぁ、と眉間に深い皺を刻んでいる。

『もう少し他の映画ならなぁ……別に見てもよかったけど……』

『桐椰くんは女子力高いのにこういうのは好きじゃないんだね』

『お前は俺をなんだと思ってんだ』

『ていうか、映画館の中だと何もできないんじゃない? 映画終わったタイミングで見張ってくれればいいのでは』

『映画館まで行って映画見ないのもな』

 私の意見は至極まともなはずなのに、松隆くん、我儘。まぁ映画好きなら、行ったからには見たいって思うものかな。

『同じ時間にいい感じの映画やってればいいんだけどな』

『諦めて“軌跡”見てもいんじゃね?』

『見るからにつまんなそうな映画に金を払いたくないんだけど、仕方ないか……』

 お金持ちのくせに。とりあえず、と松隆くんはスマホを取り出した。

『で、鳥澤と出かけるそれ、いつ?』

 結果、御三家と同じ場所で同じ日の同じ時間に同じ映画を見ることになった。本当、鳥澤くんがはっきりシロだと分かった暁には、度重なるプライバシーの侵害を謝罪したい気持ちでいっぱいだ。


「取り敢えず、十三時五〇分の回だから、チケット買おう」

「そうだね」


 自動券売機の前に立ち、鳥澤くんがぽちぽちと画面を押すのを横から見る。

 が、「あっ」という鳥澤くんの声の通り、早速アクシデント発生。見る予定になっていた“軌跡”の十三時五〇分の回には“×”がついていた。鳥澤くんの横顔が一瞬で狼狽(うろた)える。


「ご、ごめん、買っとけばよかった……!」

「ううん、私も気付かなかったし……どうする? 近い時間にある別の見てもいいけど……」


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