第三幕、御三家の矜持
 映画のラインナップを見ると、一四時から“ラビリンス2”が、十四時五十分から“感興籠絡(ろうらく)ストラテジー”という映画がある。


「“ラビリンス2”は時間はいいけどシリーズものか……桜坂さん見たことある?」

「ううん、ない。”感興籠絡ストラテジー“はちょっと時間が中途半端に空いちゃうね……」


 現在時刻は十三時二十五分。“感興”云々の開始時刻まで一時間半、待つには長いので時間を潰さないといけない。とはいえ、休日だし雨も降ってるしでカフェは混んでるだろうから、お店を探して席につく頃には急いで戻る、なんて事態も想定できる。それでもって、この映画の予告はCMで見たことがある──原作がこてこての恋愛小説だ。正直──“軌跡”もそうだったけれど──ラブロマンス系の映画は見てて飽きてしまうので、見ない口実ができるのはありがたい。

 困ったな、と視線を下げていって、“good-bye my...”というタイトルを見つける。開始時刻は十三時三〇分。すぐに始まるとはいえ、どうせ映画の最初なんて最新映画の予告だ、本編開始まで一〇分あると見てもいい。


「これは?」

「え? あー……」


 空席がたくさんあるので人気はないのかもしれないけれど、シリーズものっぽくないし、選択肢としてはありなのでは? そう思って提案するけれど、鳥澤くんは口籠(くちごも)る。


「イヤ?」

「え、イヤじゃないよ全然! 寧ろ俺は見たいけど……」

「それならこれにしようよ。ポップコーンとかも急いで買えば間に合うし」

「や、その、俺はいいんだけどさ、この監督好きだし……。でも桜坂さんってアニメーション映画とか見る……?」

「うん、こういうのは雑食だから」


 アニメーション映画は見たことがなかったけれど、他によさそうな映画もないし、変に時間を潰すのも面倒だったので、ポンッと横から画面をタッチした。席はスカスカしていて選びたい放題だ。その中から、「真ん中がいいよね」「あんまり前でも見えにくいよね」なんて話しながら二席選んだ。


「あ、別の見ることになっちゃったし、チケットは俺が出すよ」


 お財布を出そうとすると、先にお財布をだしていた鳥澤くんに止められた。「えっ」なんて言ってる間にお札を券売機に飲み込ませてしまう。


「えー……と、でも……」

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