第三幕、御三家の矜持
 が、いつもの三人は何事もないかのようにナチュラルに背後で会話をしている。思わず「育ち盛りの男の子三人いるんだから二種類買えばいいのに……」と半分独り言を呟いてしまった。お金を出した後に振り向くと、三人は空いたレジに移って「ポップコーン、バター醤油と塩」と私の意見を容れている。因みに、店員さんは男性だったので無反応だったけれど、私のぶんを用意している店員さんが女性なので視線がチラチラと動いていた。


「お待たせしました」

「……ありがとうございます」


 分かっていたとはいえ、御三家がストーカーしてる映画って、なんだかな……。やっぱりこれは鳥澤くんデート事件だ。隣のレジで「飲み物はコスパ悪いからやめとけ」「お前は塩味食べて喉が渇かないのか」「二時間くらい我慢しろよ」「腎臓を悪くするぞ」「そんなに塩多くねーだろ!」と顔のわりにやや残念な言い争いをする三人を尻目(しりめ)に、ポップコーンを抱えて鳥澤くんのもとに戻る。


「お待たせしました」

「ありがとう! ……あの、あの三人、御三家だよね?」


 そして当然に御三家を発見した鳥澤くんは苦笑い。尾行なんて地味なことをする気など欠片もなく、いつも通りに目立っている御三家。三人をもう一度見遣ると、私の口からは「ははは、そうですね」と渇いた笑いしか出てこなかった。とりあえずエレベーターという狭い空間で一緒になるのは嫌なので、やってきたエレベーターの中には慌てて乗り込んだ。御三家はさすがに空気を読んでくれたのか、松隆くんと桐椰くんが仲良くポップコーンを抱えて立ち止まっている様子が見えた。


「あの、すみません、今日のことが御三家の耳に入ってしまい……」

「あ、いや、謝らないでいいよ! 廊下で言えばそりゃーみんな知ってるよねって感じだし、そしたら御三家が知らないはずないし……」


 LIMEで言えばよかったけど直接誘いたかったからさ、なんて弁解の仕方をする鳥澤くんはやはり爽やか好青年だ。こんな人が生徒会の手先だと考えるのはいい加減やめよう……。桐椰くんと松隆くんと月影くんにもそう進言したけれど「演技の可能性がある」「石橋は叩いて渡るに越したことはない」「そもそも君が告白される時点で罠」と順に切り捨てられた。月影くんは失礼だ。

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