第三幕、御三家の矜持
「成葉さんってそういう……切ない恋愛ものが多いの?」


 折角“軌跡”から逃れられたのにまた恋愛ものか、と警戒してしまう。でも鳥澤くんは「んー、そうでもないかな、寧ろ恋愛ものはそれくらいだったよ」と否定した。


「“I wanna kill myself.”も、恋愛ものではあるけど、やっぱり成葉の作品だなぁって感じで。ハッピーエンドなのかどうなのかが人によって分かれる作品が多いんだ。なんていうんだろう、全体を見ると結果的には良かったんだろうけれど、それって本当にみんなにとって幸せな結末だったのかな、って」


 よかった、じゃあ少なくとも恋愛が主題じゃあなさそうだ。ほっと胸を撫で下ろす。


「今回の“good-bye my...”は? 予告とかも全然知らないんだけど……」

「孤児を拾った魔女の話。ファンタジー系なんだけど、舞台は十世紀以前の中国を参考にしてるらしいよ」


 予告見せればよかったね、という言葉に、どうせもうすぐ始まるからいいよと肩を竦めれば、最新映画の予告映像が途切れた。因みに背後の人が着席した気配はあったので、どうやら三人はストーカーと勘違いされないように黙っているらしい。……いや、ストーカーみたいなものだけれど。

 映画お決まりの注意事項が流れた後、映画は暗い森のシーンから始まった。アニメーション映画なんて暫く見ていなかったので、その映像美には感服する。鳥澤くんの言う通りだ。

 鳥の(さえず)りが聞こえる中に、馬車が止まり、それを降りた草を踏みしめる人の足音が響く。写されているのは足元だけ、それが湖のほとりで止まったかと思うと、カメラはその人の手元にまであがり、ズームアウトする。フードを被った怪しいその人の手にある小さな荷物が、綺麗な弧を描いて湖に落ちた。

 場面が一転し、集落のような場所で人々が(ささや)き合っている。

『あの森には近づいてはいけないよ……』

『魔女が住んでるんだ』

『人を食う、魔女が……』

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