第三幕、御三家の矜持
 こういうのも松隆くんなんだよな、なんて再びシンクロが襲ってきた。常に余裕綽綽(しゃくしゃく)としたキャラとして描かれていたエメが、一人で軍師の天幕に籠り文字通り頭を抱え、腹立たし気に机上の巻物や筆を払いのけ、(さかずき)を地面に叩きつけるほどに憔悴(しょうすい)していた。こういうギリギリの局面で人に頼ろうとしないプライドの高さが似ている。ただ「こんなときにグレンかロイーズがいれば……」なんてぼやいているので、LIMEが存在しない世界だから誰にも頼っていないだけなのかもしれない。

 が、何よりも問題なのは、なまじ三人が御三家と被るせいで、三人が嫌な目に遭うと私の気持ちもどんより沈んでしまうことだ。可愛がっていた兵士に責められるエメ、痛々しい拷問を受けるグレン、更に二人の安否も分からずに憂慮するあまり荒れるロイーズ……。正直このシーン早く終わってほしい、なんなら目も逸らしたくさえなる。

 そんな惨憺(さんたん)たる場面が漸く終わったかと思えば、今度は魔女ラシェルが王様・クリストフに虐められるときた。王様が魔女に向かって「グレンを助けたいならお前が死ねよ」なんて婉曲的に言うのだ。それ私なんだから虐めないでよ!

 そうして魔女が虐められること十分弱、漸く鬱シーンが終わった、と安心したら、今度はロイーズが出てきた。王様の意地悪を見ていたロイーズが必死にラシェルを説得する。

『貴方を犠牲にグレンが生きて帰っても、私は嬉しくなどない』

 が、その言葉が聞き入れられることはなく、ラシェルは、幼いロイーズが遊んでいた木馬のオモチャをその手に握らせ別れを告げる。

 そして魔女ラシェルという名の私、ロイーズという名の月影くんがいなくなった後、尊き自己犠牲精神のもと死亡。なんなんだろう、この、後半から始まる怒涛(どとう)の鬱話。

 エピローグでは、エメとグレンが英雄として帰還する。既に王都で名を挙げていたロイーズも合わせ、三人は変わらず仲良く、城下の飲み屋みたいなところで談笑する。

『そうだエメ、グレン、お前達に贈り物を預かったんだ』

『なんだこれ?』

『というか、誰から?』

『何を……言ってるんだ、エメ、お前が冗談なんてらしくない。なぁグレン』

『お前こそ何言ってるんだ? 全く覚えがない。このへんてこな本は一体誰からなんだ?』

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