第三幕、御三家の矜持
 ん? 今が初対面なのにどうしてそんな推測を、と首を傾げると、鳥澤くんは慌てたように「いや、その、御三家の誰とも付き合ってないからさ……」と手を横に振りながら付け加える。それでも疑問は払拭されない。疑問を顔に出したままでいると、鳥澤くんは「あー、ほら……」とまた後頭部に手を当て直しながら目を逸らす。


「御三家って、男の俺から見てもめちゃくちゃカッコいいからさ……それなのにその誰とも付き合ってないのは、やっぱその気が桜坂さんにないからなのかなって……」


 そもそも御三家にその気がないという発想はないんですか、と訊きたかったけどやめておいた。松隆くんが脳裏に(よぎ)ったからだ。月影くんがここにいたなら鳥澤くんのその言葉を一蹴したかもしれないけれど、残念ながらそれをする権利が私にはない。下手に色々と話題を振られる前に切り上げよう。


「……まぁ、じゃあ、そういうことなので……」

「あ、でも! その、もし、気が変わることとか……ないかな?」


 ないです、とはやはり言えなかった。純真すぎるその目を見れば言いたいことの九割は喉にせり上がって来るより更に前に溶けた。どうやら、私はこの人ととてつもなく相性が悪いようだ。お陰で首を横に振ることすらできない。


「……と、いいますと……」

「よかったら連絡先くらい交換してもらえたらいいなと……思うんだけど……」

「……無精(ぶしょう)だけどそれでもよければ」

「ありがとう!」


 パッと輝いた笑顔に心の中で激しく謝罪した。ごめん鳥澤くん! 気が変わることないよ! っていうか生徒会の罠かもとか疑ってごめんね!

 QRコード表示してもらってもいい?と頼まれるがままにLIMEのQRコードを表示してスマホを差し出した。鳥澤くんのスマホはRingoだった。私の連絡先を読み取った鳥澤くんは少し目を見開いたけれど、次いで、ふふ、と笑った。


「……何か変なことでも?」

「あ、あぁ、いや、桜坂さん、プロフ画像設定してないから」


 らしいな、って思っちゃって、と言われて益々首を傾げた。確かに私はLIMEのプロフィール画像を何も設定していないので、みんなに表示されるのはデフォルトの画像だ。でもそんなことはどうでもいい。手紙では“以前から”なんて言葉で濁されていたけれど。


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