第三幕、御三家の矜持
 死んだ魔女からの餞別は、エメとグレンがまだ幼かったシーンでそれぞれよく読んでいた本だった。それを“知らない”と一蹴されたロイーズは視線を彷徨わせ、その思考回路が走馬燈(そうまとう)のように映像として流された。それによって観客には曖昧にされていた伏線が一気に回収される。つまり、魔女ラシェルの魔法には供物が必要とされていたこと、エメとグレンが生還できたのはラシェルの魔法のお陰だったこと、その魔法の供物はラシェル自身だったこと。

 愕然としたロイーズのグリーンの瞳がズームアップされ、その中でいくつもの光が反射して瞳の色が変化し……、やがてズームアウトされて元のグリーンの瞳に戻る。

『俺にも、思い出せない』

 三人の記憶から完全にラシェルが消えたと描かれたところで主題歌が流れ、エンドロール。

 思わず顔がひきつった。鳥澤くん、見る人によってはハッピーエンドって言ってたけど、これって、映画としては普通に鬱エンド なのでは……?

「……鳥澤くん、ポップコーン残ってるの食べる?」

「あ、ありがとう」


 エンドロールが終わった後、二人で手早く残りのポップコーンを平らげる。といっても、わりと食べ進めていたので残りは少しだけだった。


「鳥澤くん、こういうのが好きなんだね」

「あ、うん、今回のも結構好きだった。ごめん、桜坂さんには……」

「ううん、私も結構好きだったよ」


 ポップコーンを食べた手をハンカチで拭き、立ち上がる。私達が立ち上がるとやっぱり背後の三人が立ち上がる。完全にストーカーだな。


「原作と比べてどうだった?」

「うん、相変わらず忠実に作ってあった。酷い映画だとタイトルの意味が無視されてるのもあるけど、やっぱり成葉脚本だとハズレがないよ」

「タイトルの意味かぁ。確かに、意味深なタイトルだよね」


 “good-bye my...”なんて文章が途中で終わっているタイトル。確かに、何にさよならをするのかは映画を最後まで見て漸く分かった。


「タイトルになってるのって終盤のシーンだよね? 魔女が湖の中に入って、『さようなら、私の愛した子供たち』って泣くところ」


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