第三幕、御三家の矜持
 タイトルを完全な文にするとしたら“good-bye my dear children.”なんてところだろう。エメが魔女に告白してロイーズと喧嘩になる場面もあったけど、魔女にとって三人は息子に過ぎなかったというわけだ。


「あ、桜坂さんはそっちだと思ったんだ?」

「そっち?」


 が、どうやら鳥澤くんの見解は違うらしい。首を傾げると、鳥澤くんはスマホの電源を入れながら「俺は記憶だと思ったよ」と答える。


「“good-bye my dear memory”かぁ……確かに、childrenだと魔女だけが主人公になっちゃうか……」

「主人公は魔女でいいと思うよ。でも成葉さんって結構鬱話が好きな人で、そう考えると、魔女と三人の唯一の繋がりだった記憶をメインに考えるほうがしっくりくるかなぁって」

「そうすると、“my”って魔女じゃなくて三人の誰か?」

「いや、そこはやっぱり魔女かな」

「でも記憶を消したのは魔女じゃん」

「記憶を消したのが魔女だからだよ」


 話しながら、シアターを出たところで、きょとんとして鳥澤くんを見上げる。鳥澤くんはちょっと切なそうに笑った。


「だって記憶を消さないと、エメとグレンは自分達のせいでラシェルが死んだって気づいちゃうし、魔女を止められなかったロイーズも合わせて自分達を責めちゃう。三人が苦しまないためには記憶を消すのが一番だったし、そこまでするのはラシェルが三人を愛してたからだし、愛してた三人との記憶って愛しいものじゃないかな」


 映画が始まる前とは違ってたくさん動くその口。その考察を聞いていると、原作を読んでるだけあってよっぽど好きなんだなぁと思う。

 そう、思うのだけれど、それにしてはその表情は釈然としないものだった。楽しみにしていた映画が期待通りなら、もっと輝く瞳で楽しそうに語っていてもおかしくないのに。


「……鳥澤くん的には今回ハッピーエンド?」

「うーん、どうだろう。エメからすれば、プロポーズまでした相手のことをすっかり忘れちゃうわけだし。あ、原作では後日談もあって、エメは一年と経たないうちに結婚もしてるんだ」

「なるほど、好きな人のことを綺麗に忘れてるわけですね」

「だから、俺的にはハッピーエンドかなぁ」


 “だから”という接続詞があまり綺麗に繋がらなかったので、首を傾げて続きを促す。
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