第三幕、御三家の矜持
 私が悩んでいると、少しだけどもりながらお誘いがくる。ついでに口実と逃げ道までくれた。


「あ、別に一緒にお茶までしたのに振るなんて、みたいなこと言わないから!」


 鳥澤くん……、そこまで正直に自分から言わなくてもいいのに、いい人だな……。ここまで素直に言われると逆に困るものがある。断るのも悪い気がするし、でも気を持たせるのも悪いし、そこを気にしなくていいと言われても、一緒にお茶をしたところで話すことがあるわけじゃないし、ただすぐに返事をしなかった以上用事があるというのも嘘くさいというか……。

 御三家に助けを求めようかな……、とこっそり視線を向けたけれど、金髪しか見つからなかった。残る二人はトイレでも行ったのかな。目配せでアドバイスとか欲しかったんだけどな!

「……じゃあ……その、ちょっとだけなら……」


 もごもごと答えると、鳥澤くんの顔がぱっと明るくなった。ごめん鳥澤くん。本当ごめん。もう自分が悪女に思えてきたよ。疑うのもデートするのも今日で終わりにするね!

「よかった、近くに評価高いカフェあって、フレンチトーストが有名なんだけど……あ、桜坂さんは甘いもの好き?」

「うん」

「よかったー、あ、でも紅茶とコーヒーもおいしいみたいだよ」


 雨の中を歩きだしながら、鳥澤くんの朗らかな声に思わず目を泳がせた。もうごめんなさいしか出てこない。でもとりあえず話は続けなきゃ。


「鳥澤くんってお店とか詳しいの? そういうカフェ的な」

「いやー、俺はあんまり。っていっても、男が詳しかったらどうなんだよって話なんだけど」


 いや、多分桐椰くんはこういうの詳しい気がする。勘だけど。


「中学のとき、そういうの詳しい友達がいて。それで色々教えてもらったのを覚えてるんだ」

「あー、なるほど。そっか、調べても上手い感じに出てこないって思ってたけど、知ってる人に訊けばいいんだね」


 月影くんなんて拘りありそうだから、訊いたら色々出てきそうだな。そもそも月影くんが出かけるのかなって話はあるけど。


「そうそう、俺も調べるの苦手で。行ってみるとビミョーってこと、よくあるんだよね」


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