第三幕、御三家の矜持
 鳥澤くんはそういうけれど、視界の隅に映る御三家は男三人で仲良くご来店している。少し離れているのでよく見えないけれど、頬杖をついた松隆くんはどうでもよさそうに口を動かしている。多分「コーヒーだけでよくない? 俺お腹すいてないし」とか言ってそう。桐椰くんがメニューを開きながら目を輝かせているので「折角来たんだからおすすめ食べたいじゃん」とか言ってそう。因みに月影くんは後ろ姿なので何も分からないけど、予想では「揃って同じものを頼む必要はないだろう」とか言ってる。

 少なくとも今分かるのは、御三家は私からしか見えなくて、鳥澤くんの目の前には平和な光景が広がっているんだろう、なんてことだけだ。


「……鳥澤くんって、中学校どこなんだっけ」

「坂守中学。花高にはあんまりいないよね」

「そうだね……少し離れちゃうし……」


 花高は、お金持ち私立なのに中高一貫ではない。あるのは高等学校だけなので、中学校まではお金持ちの子供たちでも公立の学校に通っていることはあるらしい。現に、松隆くんと蝶乃さんは花高内でも指折りのお金持ちだろうけれど、同じ公立中学出身だ。

 以前、松隆くんに、どうして私立の小・中学校に入っていなかったのか尋ねたことがある。その理由は「どうせ高校になったら花高入れるって決められてたから、中途半端に別の私立中学には入らなくていいって言われたんだ」なんてものだった。なんだか含みのある言い方でちょっと戸惑ってしまった上に、「変に別の私立中学に馴染んじゃって花高に入り直すの渋られても面倒なんじゃない」なんて付け加えられては突っ込んで聞いていいことなのか分からなかった。お陰で進学の話題はそれっきりだ。


「桜坂さんはどこなんだっけ」

「高祢中学。花高で高祢中学だった人には会ったことないかな」

「そうだなぁ、俺も知らない……。というか、花高に編入って珍しいよね?」


 ぴくっ、と、膝の上で指が動いてしまった。ただ、タイミングよくコーヒーとフルーツタルトが運ばれてきたので、「あ、おいしそー」なんて女の子らしいことを言って、落ち着くための時間を稼ぐ。


「そうだね、私くらいだよね、きっと」

「いやぁ、確かに学年に一人いるかいないかだけど、編入生なんて普通そのくらいしかいないし。前の高校も私立?」

「ううん、普通の公立。こっちに引っ越して来たとき──」

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