第三幕、御三家の矜持
緊張で少しだけ喉がつかえた。
「──たまたま、お父さんの知り合いが紹介してくれたから、花高になっただけだよ」
「あ、そうなんだ?」
鳥澤くんが、私の些細な変化に気付いた様子はなかった。
「もしかして桜坂さんもお嬢様……、なんて言い方失礼か」
「お父さんの友達はお金持ち……会社の偉い人みたいだけど、私のお父さんは普通のサラリーマンだよ」
「そうかなぁ。でもその友達って人は元花高生なのかな?」
「さぁ、分からない……聞き損ねちゃったし」
私とお父さんが喋ってるとあの人が嫌な顔をするからなぁ、と頭の中で顔を思い浮かべた。浮かぶのは夏休みに喚き散らしていた表情。私が知ってるあの人の顔って怒ってる顔と無表情くらいだな。無表情っていっても、怒るのを我慢して無関心を装っているだけだから、バリエーションにカウントするのが正しいのかは分からないけれど。
「ところで、鳥澤くんって特待生って聞いたんだけど本当?」
「えっ」
話題を変えたくて適当に放り込んだ話題だったのだけど、思いのほか鳥澤くんは素っ頓狂な声を上げた。そのリアクションに私のほうが驚いたし、フォークをフルーツタルトに突き刺したまま目をぱちくりさせてしまった。
「え……秘密だった?」
「秘密……、というか、入った後はすっかり落ちぶれてるから恥ずかしくて黙ってたんだけど……」
鳥澤くんの手もとでもフォークが彷徨っている。確かに、月影くんは鳥澤くんの名前を聞いても何のリアクションもとらなかったな。成績上位者なら把握しててもおかしくないのに。
「まぁ……、うん、お陰でフツーのサラリーマン家庭だけどなんとか通わせてもらってるよ……」
「この間体育祭に来てたよね?」
「見てたんだ……高校生にもなって親が見に来るなんて恥ずかしいよね」
見に来てくれるくらい仲が良いのはいいことだよ、とは言わずにおいた。
「妹もいるの?」
「……よく見てるなぁ……」
多分妹の話を続けようとしたんだと思う。感心した鳥澤くんが、一度閉じた口をもう一度開こうとしたそのとき。
「え、亜季?」
急に聞き慣れた声に呼ばれて「えっ?」と顔を向けてしまった。鳥澤くんもつられて振り返る。