第三幕、御三家の矜持
「……鳥澤くん、いつから私のこと知ってたの?」

「あー……えっと……、その、四月の半ば、くらいから……」


 鳥澤くんが言い淀んだ理由は、きっときっかけが生徒会役員による虐めにあったからだろう。虐めを目撃しておきながら何もしなかった、なんて、善い人なら罪悪感を抱くのかもしれない。そうだとしたら益々真面目な人だな、とちょっとだけ遠い目をしてしまった。なぜか鳥澤くんと喋るだけで私にこそ罪悪感がむくむくと湧いてくる。


「その……、淡々としてるというか……他の子達とちょっと違う雰囲気があるというか……そういうのを見ててずっと思ってて。だから、みんなが結構変えるプロフ画像が最初から変わってないの、ちょっと、それっぽいなって……」


 思っちゃって、とその語尾は萎んでいった。人の印象なんてそんなものだし、その印象を尚早だと言うつもりはないから堂々と喋ってくれればいいのにな、と思わず頬をかいてしまう。


「……まぁ、あんまりこういうのは設定しないタイプです」

「そっか……」


 そういえば鳥澤くんのプロフィール画像はどうなんだろう、と“知り合いかも?”を開く。バスケットボールと一緒に写る鳥澤くんがアイコンになっていた。


「……バスケ部?」

「あぁ、そうそう。クラスマッチ、御三家の月影と一緒に出てたよ」


 そっか、一組なら月影くんとクラスが同じだ。お陰で同時にもう一つ、生徒会役員じゃないんだという情報も手に入る。クラスマッチのあの日、月影くんが率いる生徒会役員ゼロのチームは、生徒会役員である萩原くん率いるチームに何の攻撃も仕掛けずに負けた。生徒会役員に勝つわけにはいかなかったから。

 じゃあやっぱり罠じゃなさそうかな……。いや、一般生徒ならまだ生徒会の息がかかった人だという可能性は拭えない。どんなに誠実に見えても、花高においては知らない人のことは信用しないのが得策だ。ぺこりと頭を下げる。


「じゃあ……、その、そういうことで。すみません」

「あ、ううん! 謝らないで! その、急に知らない人からこんなこと言われて困ったと思うし……」


< 15 / 395 >

この作品をシェア

pagetop