第三幕、御三家の矜持
 出てきた台詞は月並みなもので、誰の口から聞いたって珍しくもないものだ。だからこそ、なんでそんな助言をわざわざするのか、奇妙な疑問が湧く。そんなことを言うとしたら、これから雅の身に何が起こるか分かっているか、はたまた私の身に何か危険を及ぼす気か、もしくは──。


「……鳥澤くんも、昔そんなことがあったの?」

「え? あ……」


 ハッと顔を上げた鳥澤くんは我に返ったように表情を変える。次いで、慣れれてなさそうな作り笑いを無理矢理貼り付けた。


「成葉原作の本読んでると、そういうシチュエーションよくあるから。ほら、成葉は見方によってはバッドエンド専門みたいなところあるし」

「……なるほど」


 一瞬見せた表情からすれば、理由は三つのうちどれかだろうけれど、そのどれかまでは分からない。……やっぱり、鳥澤くんが生徒会の手先だという可能性を消すにはまだまだ早いようだ。

 ただ、それとこれとは別。トイレから出て鳥澤くんの後ろを通り過ぎようとする雅に「雅」とスマホを差し出しながら呼び止めた。


「LIME教えて」

「え? えー……でもあの、俺にもケジメはあるわけですし……?」


 事件の日、私に関わるなと松隆くんに(くぎ)を刺されたことを言ってるんだろう。でも雅が脅されたんだってことを鹿島くんに聞かされれば、雅が私との関係を絶たなければいけない理由はない。


「もうそのことはいいから。大丈夫」

「……でもほら、シュシュまだ洗濯してないし……」

「いやそれは洗濯しよう? 返しにくるのはいつでもいいけど」


 ね、と促すけれど、雅は中々頷こうとしない。それどころかその口がぼそぼそと「だってさー、俺が亜季の周りうろうろしてるのって結構いいハトみたいなもんだしさー」なんて言い訳する。多分ハトじゃなくてカモって言いたかったんだな。本当に杯戸くんから勉強を教わってるのか不安になってきた。


「でも雅が教えてくれたほうが助かることもあるから」

「……なんかせこくない? こーやってたまたま会ったからたまたま許してもらうとかさ……」

「雅が許されなきゃいけないことなんて何もないでしょ?」

「難しい言い方すんなよ……」


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