第三幕、御三家の矜持
 うーん、と雅は困っていたけれど、渋々スマホを取り出してくれた。ピコン、という音と共に“きくち みやび”が追加される。菊の花がアイコンになっていた。


「……雅、アイコン変えなよ」

「え、なんで? 俺菊池じゃん、この花、菊じゃん」

「菊のお花ってお葬式に使うじゃん」

「えー? あ、まぁそっか。確かに言われりゃそっか」


 菊自体の縁起の良し悪しはさておき。雅はなるほどなるほどと頷いた。


「まぁなんかよさげなのあったら変えるか。つか亜季も何か設定したら?」

「だってこういうの、何設定すればいいか分からなくない?」

「ハイドなんかゲームかなんかのハイドってキャラ設定してるぞ」

「そっか、でも私の名前はジキルでもないからちょっと難しいよね」

「なんでジキル?」


 雅……、本当に杯戸くんから勉強を教わってるのかな……? いや逆か、勉強だけはしっかり教わってるのかもしれないな……。


「雅、しっかり勉強してね」

「なにその生温かい目! ちゃんと頑張ってるからな俺!」


 雅達はもう帰るところだったらしく、雅が席に戻ると杯戸くんは立ち上がり、二人でお店を後にする。その後ろ姿を追っていると、お店を出るときに雅が楽しそうに喋っている横顔が見えた。あぁよかった、ちゃんとした友達がいるんだ。


「……ありがとう鳥澤くん。訊いてよかったかも」

「俺は何も。仲良さそうだったね」

「うん、仲良しなんだ」


 今しがた雅の名前が追加されたスマホを握りしめながら、ほっと息を吐く。お陰で油断してぽろっと零した。


「ずっと、大好きな友達だから」


 鳥澤くんは、そっか、なんて優しく相槌をうってくれた。その後も、私と雅の関係を問い質そうとすることはなかった。

 そして、そのまま他愛ない話をすること一時間弱、御三家の監視付きデート終了。駅で手を振って別れると、すかさず背後に人の気配がする。駅構内なので背後を人が歩いてはいるのだけれど、それとは別の存在感が漂っている。顔を向けるともちろん予想通りの三人組。しかも桐椰くんはフレンチトーストを食べた後なので顔がほくほくしている。この不良くんは何をしてたんだ本当に!

「あー……みなさんお疲れ様です……」

「全くだよ」

「形だけ言わせていただきましたが松隆くんだってフレンチトースト食べてましたよね!」

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