第三幕、御三家の矜持
「お前バッドエンド嫌いだもんね」

「そりゃな。しかも映像綺麗なだけに最後がすげー悲しかった……」


 案の定桐椰くんは苦手だったようですね。はぁ、と桐椰くんの口からは悲しそうな溜息が零れる。


「月影くんはどうだった? ああいうの好き?」

「……まぁ嫌いではなかったが」


 ちらりと、月影くんの目が一瞬だけ私を見た。でも「狙いなのだろうが、終盤でオチが分かってしまったのが残念でもあったな」と私に対してではなさそうなコメントを付け加えただけだった。


「桜坂はああいうの好きそうだよね」

「えー、嫌ですよ、鬱エンドじゃんって思っちゃいましたよ」

「やっぱそうだよな。育ててもらったくせに魔女のこと全員忘れるし」

「因みに、原作小説ではエメは一年と経たずに良家のお嬢様と結婚し、グレンとロイーズもそれぞれ嫁を貰う」

「お前原作知ってんのかよ。つか余計鬱だわ、そんな話聞いたら」

「だよねー」


 エメの後日談は鳥澤くんも教えてくれたけど、その他二人の青年達も“幸せな家庭を築きました”なんてことになるのか。松隆くんは「そうやってご都合主義的展開が潰してあるのは賛否分かれそうだね。想像の余地というか」なんて映画好きらしいコメントを残す。でも桐椰くんは「そこはちょっとくらい思い出してほしかったなぁ」なんて言うので頷いておいた。


「ただ、それもそれで切ないよね。だってエメは魔女のこと好きだったし」

「まぁ確かに……ってなるとやっぱ自己犠牲なんてするもんじゃないよな」

「でも魔法がないとエメとグレン死んでたじゃん?」

「……いやな脚本だな!」


 ハッピーエンド主義者の桐椰くんがぼやく。私も「逃げ道なしですね!」と賛成した。

 そこで不意に、月影くんが口を開く。


「君はハッピーエンドだと評すると思っていた」

「え、どういうこと?」


 訊き返しても返事をくれる気配もない。


「ねぇツッキー」

「うるさい」

「呼んだだけじゃん! 桐椰くんの愛想の良さと足して二で割ってよ!」


 結局、その台詞の意味は分からなかった。
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