第三幕、御三家の矜持

(二)貴方に掛けた希

 九月下旬のイベント、生徒会役員選挙。一週間後に選挙を控え、今日の午前中には立候補者と応援者の演説がある。今の生徒会は何の仕事をしてるのかよく分からない役員がやたら多いとはいえ、指定役員だけは選挙できちんと選ばれる。生徒会長一人、副会長二人、書記、会計、庶務、図書役員長、環境役員長、体育役員長、学習役員長、風紀役員長、企画役員長で合計十二人と、正式なメンバーだけでも大所帯。

 そんな生徒会のメンバーは今年は誰になるのか、下駄箱に来るとみんなが口々に噂というか、予想を立てている。


「指定役員は変わらないんじゃない? 二年ばっかりだし」

「生徒会長は鹿島だろーな、どうせ。一年のときからやってるし、そもそも対抗馬いなさそう」

「誰が立候補するか知ってる?」

馬場(ばば)が出るって話は聞いた。AO欲しいんだって。アイツサッカー部のキャプテンやってるんだからこれ以上点数要らねーだろって感じだけど」


 あぁそうか、点数稼ぎ──推薦に有利に働くネタ(なんて言い方は失礼かもしれない)を手に入れておくチャンスは今日が最後か……。推薦を受けるつもりなんて全然ないから、そういう意味でも私には関係のない話だ。

 みんながその話題を口にしているのは廊下を歩いてても同じだった。普通生徒会選挙なんてそんなに盛り上がるイベントじゃないはずなのになんでだろう、と首を傾げていると「今年の鹿島くん、どんなポスターなんだろう」なんて声が聞こえて納得する。そういえば、松隆くんもポスターは見物(みもの)だって言ってたっけ。私は全然好きじゃないけど、鹿島くんを好きな女の子もたくさんいるんだったな、そういえば。

 なんて呑気なことを考えていたときに、前方から歩いてくる松隆くんを見つけて目をぱちくりさせてしまった。私に気が付いた松隆くんはスマホから顔を上げる。
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