第三幕、御三家の矜持
「あぁ、おはよう、桜坂」
「おはよう。歩きスマホはよくないですよ、松隆くん」
「ごめんごめん。ちゃんと前も見るようにしてるから許して」
「というか、今日は早いよね?」
そう、松隆くんはいつも始業ギリギリだ。アイツ朝弱いから、と桐椰くんも言っていた。そのくせリムジン登校とかもせずにてくてくとのんびり歩いてやってくるのだから妙な王子様だと思う。
「あぁ、そうだね。今日は生徒会役員選挙だから」
「松隆くんもそんなに気にしてるの?」
「当たり前だろ。金持ち生徒会を一年やって、次はどうするつもりなのか興味もあるし」
次は、か……。金持ち至上主義の生徒会組織はもうすぐ終わると、鹿島くんも言っていた。そのことは松隆くんには話してないけれど、何か勘付いたのだろうか。
「……そういえば登校日に──」
「ごめん、ちょっと急いでるんだ。話はまた放課後にでも」
深く突っ込まれないように話さずにおいた、登校日の鹿島くんの発言。それを話しておこうとしたのに、松隆くんは珍しく足早に去ってしまった。あの松隆くんがHRの時間を気にするわけがないし、それなのに話を切り上げてまでして急ぐなんて珍しい……。
まさか松隆くん……、なんて予想が、教室に着いたときにやや現実味を帯びる。いつも余裕をもって着席をしているあの桐椰くんが、いない。
HRが始まっても桐椰くんはいなかった。クラスの中に桐椰くんの欠席を訝しむ人はいない。桐椰くんは見た目は不良だし春には停学処分にもなっていたから、学校を休んでいることに違和感がないんだろう。でも中身を知っている私からすれば、真面目な桐椰くんが学校を休むなんて体調不良くらいしか考えられない。でも松隆くんが「そういえば遼は体調を崩してて」なんてことも言ってなかったことからすれば、その可能性はない。
そんな中で、今日という日に考えられる可能性は一個だけだ。
「生徒会役員立候補者と応援演説者はいないな? いたら御条講堂に向かうんだぞ」
蓼沼先生のその言葉で確信する。
松隆くんが生徒会役員立候補者、桐椰くんが応援演説者だ。