第三幕、御三家の矜持
 そんなことは何も聞いてない。あの三人がそんな話をしていたのを聞いたこともない。素振りさえなかった。松隆くんは生徒会役員選挙をよく気にしてたけれど、御三家の敵対勢力なんだから当たり前だと勝手に納得していた。でも多分、それだけじゃない。松隆くん自身が生徒会役員に立候補するからあんなに気にしてたんだ。

『この間のクラスマッチ、流石にイラついてね。潰してやろうかなって気にならないことはないよ』

 一応、可能性としてもう一つ考えられるのは、御三家が生徒会役員選挙をぶち壊す、なんてこと。壊してどうするの、という話ではあるけれど、少なくとも鹿島くんの悪事をバラして生徒会長をさせないだけで報復にはなる気がする。でもこの可能性は、鹿島くんが私にちょっかいを出していたことを松隆くんがそこまで気にしてくれているというやや自意識過剰な評価が根拠になる。なきにしもあらず……ではあるけれど、確率的には松隆くん自身が生徒会に入るほうが有り得る気がした。票を取ること自体は簡単そうだし。

 ただ、問題は生徒会に入って何を、という話ではある……。生徒会長になれば敵対勢力のトップに立てるし、鹿島くんを会長の座から引きずり下ろすこともできて一石二鳥なわけだけど、組織のトップとか、松隆くんは面倒くさがりそうだもんな……。

 そんなことをしているうちに、生徒会役員選挙を理由に御条講堂へ向かう時間になる。桐椰くんはHRに現れずじまいだったので、やっぱり応援演説者として先に御条講堂にいるんだろう。

 御条講堂は、式典のときなどに利用されるホールだ。まるで大学みたいに専用のホールを持っている点はさすがお金持ち高校、なんて最初は思った。だって高祢高校では、式典があるときでもわざわざ体育館にパイプ椅子を並べるのだから。そんな貧乏くさいことを、と花高生には笑われてしまうかもしれない。現に、御条講堂は全校生徒と教員が座るだけのキャパがあるし、二階席まである。ただ、そこまで大仰なものとなれば始業式や終業式といった比較的小さな行事のときには使われず、合唱コンクールとか卒業式などに用途は限定されているらしい。お陰でというか、維持費だけがかかっても勿体ないということで、時々外部の人がお金を払って利用していることもあるレベルだとも聞いた。

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