第三幕、御三家の矜持
「以上をもちまして、図書役員長立候補者、薄野芙弓の演説を終わります」


 散々好き勝手演説していったなぁ、と拍手をしながら思ったのだけれど、司会が次に促した候補者は環境役員長だったので合点がいった。どうやら図書役員長には対抗馬がいないので、立候補すれば自動的に役員長就任らしい。他の役員長も競争率が低いのか、はたまたお金持ち至上主義ゆえに出馬に対する暗黙の了解もあるのか、立候補者は大体一人ずつだった。


「続きまして、生徒会執行部の部に移ります」


 そして待っていた本命の選挙。各委員会の役員長立候補者と応援演説者が退場し、代わりに執行部──生徒会長とか副会長とか──の立候補者と応援演説者が舞台の袖から入場する。


「……えっ」


 そのメンツを見て、思わず声を上げた。でも周囲の人達が私を不審な目で見ることはない。講堂内が騒めきでいっぱいになるほど、誰もが驚いていたからだ。


「静粛に。これより生徒会執行部役員選挙、応援演説及び立候補演説を行います」


 書記、会計、庶務、と下っ端っぽい役員から順に演説が始まる。執行部は競争率が高いんだろう、各役職には一つの席に二人以上の立候補者がいた。席を奪い合う立候補者は、ふーちゃんのような自由な演説ではなく、真っ当で真面目な演説を行う。それを聞きながら、どうせ財力が物を言うんじゃないかな、なんて(よこしま)なことを考える──余裕は、なかった。

 庶務の立候補者の演説が終わり、着席する。それを待って、司会者の口は重々しく開いた。


「続きまして、副会長立候補者、桐椰遼、応援演説者、松隆総二郎」


 嘘だ、なにこれ、なにやってんの二人共、と喉まで出かかった。狼狽える私とは裏腹に、松隆くんはいつも通りの余裕の笑みを浮かべてマイクの前に立つ。


「私、松隆総二郎は、友人として、桐椰くんを、生徒会副会長に推薦します」


 借り物競争のときのような悲鳴は、上がらなかった。多分、みんな目の前の状況に頭がついていかずに唖然としている。なんで御三家が生徒会役員に? 敵じゃないの? 内部に入って何かするつもりなの? で、その二人の組み合わせで、松隆くんは応援演説者なの? きっとみんなそう思っている。


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