第三幕、御三家の矜持
「理由は、無意味だと思ったからです。先程の桐椰くんの言葉にもありましたが、生徒会役員の名を借りた身勝手な行動は、生徒会長として目に余るものがありました」


 自分がその制度を導入したくせに白々しい、なんて思った人はどのくらいいただろう。でも鹿島くんは「もちろん、制度を導入したのはほかならぬ私です」なんて続ける。


「だからこそ、この私が責任をもって、刷新(さっしん)された生徒会役員と共に、組織を再度変えます。次こそは、花咲高校の生徒会役員という役職に胡坐(あぐら)をかいた評価を許さず、いかに価値ある役員として活動したかを外部に堂々とアピールできる組織を作ります」


 登校日に鹿島くんの口から公約ことを聞いていなかったら、私も驚いていただろう。というか、聞いていた私でさえ、本当にそうするとは思わなくて驚いているんだから、何も知らない人達が驚くのは当たり前だ。


「どうか、私、鹿島明貴人に清き一票を、よろしくお願いします」


 そして、生徒会長立候補者は鹿島くんただ一人である以上、その公約は既に八割方実現したに等しかった。

 生徒会役員選挙候補者演説は 後半の怒涛(どとう)の展開と共に終了した。これより立候補者の名前が解禁され、廊下にポスターが貼り出される。応援演説者の写真はないらしく「松隆くんの写真、合法的に手に入ると思ってたのに……!」という悲しそうな声が聞こえた。ついでに「でも桐椰くんのポスターは手に入るじゃん? 大きいから顔はほぼ等身大だし、抱き枕に貼り付けられるよ!」なんて不穏な声も聞こえた。

 演説後は候補者と応援演説者に対する縛りもなく、桐椰くんは普通に教室に帰ってきて、何事もなかったかのように着席する。私は桐椰くんが教室に入ってきたときからガン見していたというのに、桐椰くんは「なんだよ」すら言う気配はない。代わりに他クラスから飛び込んできた女子に握手を求められた。


「桐椰くん、副会長だよね! 私絶対桐椰くんに入れるね!」

「応援してるよ、負けないでね!」

「桐椰先輩好きです!」


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